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日本版FCCが消えた理由

川本裕司

川本裕司 朝日新聞記者

「アジェンダ(議題)設定に市民が制作するパブリック・アクセス・チャンネル(PAC)が入ったときは革命だと思ったが、結果はまったく前進しなかった」。市民団体「コミュニケーションの権利を考えるメディアネットワーク」の会員は、昨年12月22日にまとまった総務省懇談会の報告書に失望した。

 この懇談会は「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」(座長・浜田純一東大総長)。原口一博総務相(当時)の肝いりで一昨年12月に設けられ、1年間にわたり11回の議論を経て報告書は公表された。

 民主党は一昨年7月の政策集(インデックス)で通信・放送行政を総務省から切り離し、独立行政委員会として設ける通信・放送委員会(日本版FCC)に移す、と掲げた。国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消するとともに、放送に対する国の恣意的な介入を防ぐため、と説明していた。

 総務相に就任した原口氏は、「時の政権の意向が放送局への圧力となり言論統制が起きる恐れがある」として、総務省の規制・監督を監視する「言論の自由を守る砦」という独自の構想を提案。「FCCモデルではない世界に類を見ない言論の砦をめざす」と表明するとともに、通信・放送業界の規制監督業務については「引き続き、総務省が担う」と述べた。日がたつにつれ、独立行政委員会は当初の政策集のイメージから離れていった。

 原口氏に近かった関係者は、「FCCが民主党系、共和党系と委員の政党色が強いこともあり、FCCとは言わなくなった。原口氏が想定していた言論の自由を守る砦は(新たな第三者機関ではなく)行政の中に監督機関を置くものだった」と言っている。

 第3回の懇談会が開かれた昨年3月には、「情報に対する地域や市民のアクセス機会の拡大等を通じて、ヒューマンバリューを向上させる方策」という論点の中で、「これまで情報の受け手だった国民が自ら発信する側となるための仕組み」として、PACも議題に取り上げられた。市民団体の期待は高まった。

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