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潔く興行会社に転身を

緒方健二

緒方健二 元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)

大相撲の力士による八百長問題が、またも噴出しました。これまで何度も報じられたり、裁判沙汰になったりしましたが、その都度日本相撲協会側は認めずにきました。でも今回は様子が違います。大相撲の野球賭博事件を捜査してきた警視庁が、その過程で「証拠」をつかんだのです。力士の携帯電話のメール内容を分析したら、2010年の3月場所と5月場所で、力士同士で星を売買しているとしか思えないやり取りがなされていたのです。総数約50通に及ぶこれらのメール内容は、警視庁が警察庁を通じて、相撲協会を監督する文科省に報告されました。文科省に調査を指示された協会側はもう、知らぬ存ぜぬを通すことはできませんでした。

 相撲協会に提案します。根拠のはっきりしない「国技」だの「伝統」だのを掲げ、税制面その他で優遇される公益法人にこだわるから、できもしない「実態調査」や「改善の誓い」をしなければならない。そしてしばらくするとまた問題が表面化して、何も変わらずに叩かれる。この際、相撲を興行と割り切り、うるさい役所の監督を受けなくてすむように純粋な民間企業として生まれ変わりなさい。そうすれば八百長だって何だってできる。ただし野球賭博や違法薬物はだめですよ、犯罪ですから。並はずれた体格の力士が裸同然でぶつかり合う見せ物は、国内はもちろん海外でも人気を博すこと間違いなしです。ほかの格闘技との交流もあるでしょう。興行の打ち方なら、旧に復して、つながりの深い暴力団に任せればいい。暴力団排除を求める警察も、純粋な民間企業ならいまほど厳しく監視しないかも知れません。同じような提案を警察幹部からも聞きました。

 警視庁が分析した力士同士の携帯メールを振り返ります。昨年5月10日午後5時すぎの送受信です。

 清瀬海→春日錦「立ち会いは強く当たって流れでお願いします」

 春日錦→清瀬海「了解致しました。では流れで少しは踏ん張ってください」

 5月12日夜の恵那司と春日錦間のやり取りです

 恵那司→春日錦「相手に叩きはなしで、突っ張るだけ突っ張らして胸で受け止めて最終的には右をさして寄り切りかすくい投げ辺りがベストだと思いますよ~」

 こうしたいんちき相撲に、金銭が伴っていることを強くうかがわせるやり取りもあります。

 5月23日の送受信です。

 清瀬海→春日錦「来場所のことなんですかもらえるならもらえませんか?駄目なら20万円は返してもらいたいです」

 春日錦→清瀬海「了解です!もう少しだけ待って、場所後に70万の支払いがあるから、それの精算が終わったら連絡するね」

 6月には春日錦が恵那司に立て替えを依頼するメールを送っています。ご丁寧に銀行の口座番号も添えて。

 「こういうやり取りをメールですることからして、やつらの愚かさと罪悪感のなさを証明している」とは、ある警察幹部の感想です。力士12人と親方2人の計14人の名がメールに登場します。これらの調査は協会設置の「特別調査委員会」が担っていますが、解明など無理でしょう。

 さて動かぬ証拠を見つけた警察の人たちの反応はさまざまです。「驚いた。残念だ」という人がいる一方で、「八百長は以前から再三指摘されていたし、まあこんなもんだろう」と冷ややかに受け止める捜査幹部もいます。この幹部が驚いたのは、

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