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チェルノブイリにはならない

武田徹

武田徹 評論家

 「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」。よく引かれる物理学者・寺田寅彦の言葉だが、出典まで確かめた人はそう多くないだろう。これは昭和10年に彼が発表した「小爆発二件」というエッセーの中の一節だ。

 寺田は軽井沢に滞在中、浅間の小噴火を目撃する。帰郷の途で駅で待っている時、学生と駅員の会話を小耳に挟んだ。駅員は浅間登山からの帰りらしい学生に噴火の様子を盛んに聞いている。学生は「なに、なんでもないですよ、大丈夫ですよ」と平然としている。駅員は「そんなはずはないだろう」と心配そうに手帳にメモを取る。

 そんな二人を見て寺田は、噴火口の近くにいても自分は大丈夫だと信じて「こわがらなさ過ぎる」人もいれば、安心だと何度いわれても信じられず、「こわがり過ぎてしまう」人もいるのだと書いた。

●ありえない臨界事故に怯える

 今回の原発事故でも同じだ。事故後、一週間ほど夕刊紙などでは「再臨界」の見出しがおどろおどろしく紙面に踊っていた。

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筆者

武田徹

武田徹(たけだ・とおる) 評論家

評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。

 

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