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若者に広がるシェア的な行動の足を引っ張るな

三浦展

三浦展 三浦展(消費社会研究家、マーケティングアナリスト)

 私は近年『シンプル族の反乱』『愛国消費』『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』という本を出したが、この大震災後の社会を見ると、はばかりながらこれら三冊の本で提示した価値観が一気に拡大していると感じる。

 『シンプル族の反乱』は、ひとことで言えば、環境に負担の少ないライフスタイルを目指す30代くらいの、主として女性のライフスタイルを描いたもの。ブランド消費よりは、日常の衣食住の質的な向上を目指すもので、ベーシックでシンプルな物を買い、長く使おうとする。電気製品はできるだけ使わず、ご飯は土鍋で炊き、掃除は箒で、暑い時は打ち水をするといった伝統的な日本のライフスタイルを好む人たちがシンプル族だ。

 『愛国消費』はその続編のような本だが、シンプルなライフスタイルを追求すると日本の伝統的な暮らしに近づくところから、シンプル志向が日本志向につながる点を指摘している。また、経済大国としては中国に抜かれても、文化面では日本の素晴らしさを誇りに思い、欧米の物を買うより、日本の伝統的な職人芸で作られた物を求める。それが愛国消費である。

 愛国消費の心理的地盤が、サッカーワールドカップや、野茂、イチロー、松井の大リーグでの活躍など、スポーツを介したナショナリズムによって形成された面もあると思われる。大震災後の「がんばろうニッポン」の気運の盛り上がりも、スポーツを通して日本を応援してきた人たちにとってはごく自然なものであろう。

 『これからの日本のために……』は、シェアハウス、カーシェアリングなどの広がりに見られるように、これまでの日本の基幹産業である住宅、自動車ですら、若者が所有欲を持たず、シェア(共同利用)でかまわないと思い始めていることを指摘した。

 新製品を買い続けることに幸福は感じられず、むしろエコロジーの観点からは罪悪感すら感じられる。だが、古い家をシェアハウスに改造して住んだり、車をシェアして使えば、エコロジーでもエコノミーでもあり、かつ人とつながるよろこびが感じられるということに多くの人々が気づき始めたのだ。シェアの対極にある私有型の行動では、自分だけしか喜びを感じられないが、シェアなら自分と他者とが共によろこびを分かち合える、まさによろこびをシェアできるからである。

 そこでこの大震災である。この大震災は、日本には多数の被災者を受け入れられる住宅ストックがあることを知らしめた。実際、これまでも本欄で紹介してきたように、多くの人たちが自分の所有する空き家、自分の経営するシェアハウス、あるいは自分の自宅にすら被災者の受け入れをしようとしている。日頃は借り手がつかずに空いている家は、緊急時に国民がシェアできる共同の財産として活用できるのだ。

 と同時に、

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