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乱暴だった検察の捜査、希薄だった犯罪性

魚住昭

魚住昭 魚住昭(ジャーナリスト)

堀江貴文さんの上告棄却を報じるニュースをテレビで見ていたら、ベテラン記者とおぼしきキャスターがこんな趣旨のことを言っていた。「私は堀江さんとかつて会ったことがあるが、彼は自分を粉飾して、実体以上に大きく見せようとする人間だという印象を受けた。その彼が粉飾決算の罪で刑務所に入るのは、ある意味当 然の成り行きだろう」

 私はその言葉を聞いて少し腹が立った。なぜなら第一に堀江さんが終始一貫無罪を主張していることをまったく無視していたからだ。第二に粉飾決算=悪質犯罪という固定観念に囚われ、事件の内実を理解しようという姿勢が見事に欠落していたからである。

 堀江さんの主張は様々な媒体を通じてかなり社会に浸透しているから、このキャスターのような読者はほとんどおられないだろうが、念のため、私がライブドア事件の取材を通じて把握した事実をこの場を借りてお伝えしておきたい。

 まず堀江さんが起訴された事案の内容を確認しておこう。従来の刑事処罰の対象となってきた粉飾決算というのは、架空の売り上げを計上したり、負債を隠したりして黒字を偽装する行為だった。本当は赤字で破綻しているのに、それを儲かっていると装って株主や投資家を欺いていた。そんな企業の幹部が摘発の対象とされてい た。

 ところが、堀江さんが問われた粉飾決算の核心部はそれとは明らかに性格が異なっている。ライブドアグループが、本来ならPL(損益計算書)に載せるべき自社株の売却益約38億円をBS(貸借対照表)に載せたということが問題視されているにすぎない。

 もう少しひらたく言うと、自社株売却益が入ってきたのを「資産が増えた」と書くべきなのに「利益が出た」と書いたのはけしからんと検察は言っているのである。これは従来の「儲けたのか、儲けていなかったのか」という話とは次元が違う。単に「儲かったカネをどう会計処理するのか」という会計処理上の技術的な問題であ る。

 この核心部分のほかにも2つの起訴事実があるのだが、どれも犯罪性が希薄で、行政指導で是正させれば済む話だろう。少なくとも経営陣を一斉に逮捕して株式市場を大混乱に陥れるに足る事案とは到底思えない。従来の司法の常識では考えられないことである。

 堀江さんは自著『徹底抗戦』(09年、集英社刊)で「そもそも、業績も好調で将来も有望なライブドアを突然攻撃するような今回の捜査が異常であったことを理解してほしい。事件から3年以上の月日が流れたが、ライブドアは未だに1000億円以上の現金を持ち、傘下に上場企業も抱える大企業である」と書いているが、そ の通りだ。

 では、なぜ特捜部はこうした乱暴極まりない捜査をしたのか。その原因はいろいろ考えられる。堀江さんの言動が「法秩序の番人」を自称する検察官僚の神経を逆なでしたことも事実だろう。あるいは、後の証拠改ざん事件で明らかになったように、特捜検事のモラルや捜査能力の極端な低下も原因の一つとして押さえておかねば ならないだろう。

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筆者

魚住昭

魚住昭(うおずみ・あきら) 魚住昭(ジャーナリスト)

ジャーナリスト。1951年、熊本県生まれ。一橋大法学部卒。75年、共同通信社入社。社会部記者として87年から司法クラブに在籍しリクルート事件などを取材。96年退社。司法分野や人物フィクションの執筆をしている。著書に『特捜検察』『渡邉恒雄 メディアと権力』『特捜検察の闇』『野中広務 差別と権力』(講談社ノンフィクション賞)など。2014年6月、WEBRONZA筆者退任

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