魚住昭
2011年05月06日
私はその言葉を聞いて少し腹が立った。なぜなら第一に堀江さんが終始一貫無罪を主張していることをまったく無視していたからだ。第二に粉飾決算=悪質犯罪という固定観念に囚われ、事件の内実を理解しようという姿勢が見事に欠落していたからである。
堀江さんの主張は様々な媒体を通じてかなり社会に浸透しているから、このキャスターのような読者はほとんどおられないだろうが、念のため、私がライブドア事件の取材を通じて把握した事実をこの場を借りてお伝えしておきたい。
まず堀江さんが起訴された事案の内容を確認しておこう。従来の刑事処罰の対象となってきた粉飾決算というのは、架空の売り上げを計上したり、負債を隠したりして黒字を偽装する行為だった。本当は赤字で破綻しているのに、それを儲かっていると装って株主や投資家を欺いていた。そんな企業の幹部が摘発の対象とされてい た。
ところが、堀江さんが問われた粉飾決算の核心部はそれとは明らかに性格が異なっている。ライブドアグループが、本来ならPL(損益計算書)に載せるべき自社株の売却益約38億円をBS(貸借対照表)に載せたということが問題視されているにすぎない。
もう少しひらたく言うと、自社株売却益が入ってきたのを「資産が増えた」と書くべきなのに「利益が出た」と書いたのはけしからんと検察は言っているのである。これは従来の「儲けたのか、儲けていなかったのか」という話とは次元が違う。単に「儲かったカネをどう会計処理するのか」という会計処理上の技術的な問題であ る。
この核心部分のほかにも2つの起訴事実があるのだが、どれも犯罪性が希薄で、行政指導で是正させれば済む話だろう。少なくとも経営陣を一斉に逮捕して株式市場を大混乱に陥れるに足る事案とは到底思えない。従来の司法の常識では考えられないことである。
堀江さんは自著『徹底抗戦』(09年、集英社刊)で「そもそも、業績も好調で将来も有望なライブドアを突然攻撃するような今回の捜査が異常であったことを理解してほしい。事件から3年以上の月日が流れたが、ライブドアは未だに1000億円以上の現金を持ち、傘下に上場企業も抱える大企業である」と書いているが、そ の通りだ。
では、なぜ特捜部はこうした乱暴極まりない捜査をしたのか。その原因はいろいろ考えられる。堀江さんの言動が「法秩序の番人」を自称する検察官僚の神経を逆なでしたことも事実だろう。あるいは、後の証拠改ざん事件で明らかになったように、特捜検事のモラルや捜査能力の極端な低下も原因の一つとして押さえておかねば ならないだろう。
だが、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください