潮智史
2011年05月24日
東日本大震災以降、多くのスポーツ選手や関係者から同じ言葉を口にしている。家族を失い、家屋を失い、職を失い、夢や希望も失うような、あまりにも過酷な状況の中で、とてもスポーツどころではない。チャリティーマッチや被災地を訪ねての活動が数多く繰り返されているいまでも、それらの取り組みが本当に正しいのかどうか、わからないと自問自答する姿を見ている。
スポーツを含め、音楽や芸術などの文化は、生活が豊かになり、経済的な余裕があって生まれ、発展すると考えられてきた。スポーツ選手たちが「こんなときに、プレーしていていいのか」と苦しんだ気持ちも十分に理解できる。
一方で、スポーツだからこそできたという話も耳にする機会も実に多い。地域密着を掲げてきたサッカーのJリーグでは、ベガルタ仙台が地元サポーターと互いに背中を押し合うように躍進している。4月23日のリーグ再開後は4勝2分けの負け知らず。勝負をあきらめず、最後まで全力を尽くす選手の姿に涙を流す人もたくさん見た。ラグビーの釜石シーウェイブスは5月15日に震災以降初めての試合を行い、多くの被災者も集まったという。政治にしかできないこともあれば、スポーツにしかできないこともあるのだ。
昨年あったサッカーのワールドカップ南アフリカ大会でベスト16に導いた前日本代表監督の岡田武史さんからはこんな話を聞いた。
震災から約1カ月後、被災地に入っていたボランティアグループの協力を得て複数の避難所を訪ねたという。マイカーにボールを詰め込んで、子どもたちを避難所の外に誘い出してボールをける。そんなことを考えていたら、実際には子どもが笑顔でサッカーに興じているうちに多くの大人たちが「一緒に入ってもいいですか」と加わってきたそうだ。
ある避難所では、70を過ぎたようなおばあさんが参加して、思わずヘディングをした。思いがけないプレーに岡田さんはけがを心配したのだが、
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