小関悠
2011年06月14日
今回の原発事故は、そもそも原発のことを正しく理解していたのか、新聞社やテレビ局、研究者、政治家など、大勢の人に問う機会になった。地震直後はほとんど誰もが正確に語ることに苦労していたし、見当違いの発言は今もなお少なくない。たしかに、原発の状況は日々変わっており、将来の見通しをつけることは難しい。しかしだからこそ、科学的に正確な報道、正確な発言がこれまで以上に求められている。
もどかしいのは、このような状況にもかかわらず、正確な情報がなかなか伝わってこないことだ。原発がどのような状況にあるのか、正しい情報がもっと共有されていれば、マスメディアはより冷静な報道が可能だったろう。しかし、実際には状況説明が行われるばかりであったために、多くの人が全体的な状況を把握できないまま、原発内で爆発が起きたとか、被災地で何ベクレルが検出されたとか、個々の事象がセンセーショナルに取り上げられている。これほどのデマや風評被害が広がっているのも、正確な情報と分析が不足していることに、人々が不安を抱いている証拠である。(具体的にどのようなデマが流されたかは荻上チキ氏や松永英明氏のブログ、および荻上氏の書籍「検証 東日本大震災の流言・デマ」が詳しい)
原発事故の影響をひとつひとつ取り上げ、危険だ、問題である、おそろしい、と報道するのはある意味では簡単だ。しかし、本当に必要なのは、どれほど危険なのか、どのように対処すればいいかを解説することではないか。インターネットでは早くから、原発がどのような状況にあるか分析し、どう心がけるべきかを紹介する例が見られた。マサチューセッツ工科大学の学生らが立ち上げたmitnse.comや、東大病院放射線治療チームによるteam nakagawaはその代表だろう。こうした分かりやすい分析がメディアでも早くに取り上げられていれば、人々の不安も多少は和らいだはずである。
この数か月の報道で感じたのは、もしかするとマスメディアは科学的な報道を行って間違えることを恐れているのではないかということだ。
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