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起訴拠り所の調書否定で小沢氏の無罪確実

魚住昭

魚住昭 魚住昭(ジャーナリスト)

7月8日、笠間治雄・検事総長が検察改革について記者会見すると聞いたので霞が関の検察庁に行った。会見のポイントは「従来の独自捜査中心主義を改めて財政経済事件の捜査に軸足を移すため特捜部の班編制を変える」ということだった。

 会見を聞きながら、私は複雑な思いにとらわれた。笠間総長は、独自捜査をする「特殊・直告班」を2班から1班に縮小し、国税局や証券取引等監視委員会などからの告発を受ける「財政経済班」を2班に拡充するという。

 しかし、いくら班編制をいじっても、総体としての特捜部は従来通り存続するのだから、まるで朝三暮四のような話だ。それで国民に納得してもらえる思うんだったら、検察は国民を相当馬鹿にしている。

 それに、金融証券など企業犯罪の摘発を強化する方針は、2000年代初頭からの検察の既定路線だった。今回の班編成の変更はその路線を具体化したものにすぎない。それをあたかも重大な改革であるかのようにぶち上げたのだから、ますます国民を愚弄している。

 しかし、そう思う一方で、私は今回の総長会見にこれまでとは明らかに違う空気を感じた。「特捜部は政治家を捕まえるためにできた部ではない。その意味で原点に帰る」という総長の言葉からも、かつてないほど切迫した気持ち が伝わってきた。

 この会見では検察庁の全職員に向けた「検察改革についてのメッセージ」も公表されたが、総長が全職員向けメッセージを発すること自体が異例中の異例の出来事だ。

 笠間総長がこれほど強い危機感を持った理由はもう言うまでもないだろう。東京地裁が6月30日、陸山会事件で特捜検事が作成した調書の多くを証拠採用しない決定をしたからである。

 なかでも致命的だったのは「小沢一郎氏に4億円の虚偽記載を報告し、了承を得た」という石川知裕衆院議員の調書(昨年1月19日付)の任意性が全面否定されたことだ。

 登石郁朗裁判長は決定理由で「特捜部は恐ろしいところだという(検事の)威迫や、小沢の不起訴見込み判断という利益誘導、まさに硬軟両面からの言辞がなされたことにより、石川被告は本件調書に署名指印したものと推認される」と特捜の捜査手法を糾弾した。

 この本件調書は、検察審査会が2度にわたって小沢氏の起訴相当議決をした際に最大の拠り所だった。その任意性が完膚無きまでに否定されたのだから、これから始まる小沢氏の公判の結論は見えたも同然だった。

 理屈から言えば、石川議員ら3被告と小沢 氏本人の審理を担当する裁判官の顔ぶれは異なるので別の結論が出る可能性がないわけではない。しかし、登石裁判長が石川調書の任意性を否定した根拠は、昨年5月に石川氏が特捜部の再聴取(検審の起訴相当議決を受けて行われた)を受けた際、ひそかにICレコーダーに録音していたやりとりである。

 そのなかで検事自ら石川氏に対し「特捜部はおそろしいところだ。何でもできるところだぞ」と言って威迫したことを事実上認めているのだから、小沢公判でも石川調書の任意性が認められる可能性は限りなくゼロに近い。ほかに小沢氏の虚偽記載への関与を示す証拠はないから、彼の無罪は確実になったと言っても言い過ぎではないだろう。

 6月30日の決定のもう一つ重大なポイントは「切り違 い尋問」が認定されたことだ。特捜部は陸山会の会計責任者だった大久保隆紀氏と石川氏の「自白調書」をもとに、大久保氏が石川氏から虚偽記載の報告を受けていたと断じていたが、実は

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