メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

子どもの権利侵害という視点に欠ける日本の社会

大久保真紀

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

子どもポルノあるいは児童ポルノという言葉を聞いたとき、みなさんはどんな映像を想像されますか?

 ちょっとエッチな映像を想像しているあなた、それは全くの認識不足です。「ポルノ」という外国語から派生した言葉ゆえの軽い感じが世の中に行き渡っているのかもしれません。実際に出回っている子どもポルノは、子どもの性器を映し出したり、強姦している場面を撮影したり、あるいは、大人の性器をさわらせたりというものです。撮影された子どもたちの権利を著しく侵害する行為が、子どもたちへの性的虐待がカメラの前で行われているのです。

 この問題を考えるときに、一番大切なのは、映像・画像を見る私たちが不愉快に感じるかどうかということよりも、撮影された子どもたちの権利が侵害されている、という視点をもつことではないかと思います。日本では、諸外国に比べ、その意識が低いように思えてなりません。

 私は1995年から、子ども買春や子どもポルノについて取材をしています。96年にスウェーデンのストックホルムで開かれた第1回の「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」では、当時の日本のふつうの書店で売られている雑誌を手にした米国の法律家が「こんなものは子どもポルノそのものだ」と、子どもポルノに対して全く規制のなかった日本への批判が相次ぎました。子ども買春と子どもポルノを取り締まるための法整備の必要性が説かれ、その後、NPO・NGOの尽力もあって1999年に子ども買春・子どもポルノ禁止法が議員立法で制定されました。

 法律ができて10年が過ぎ、子どもポルノを扱うサイトへのブロッキングが始まったり、警察庁が子どもポルノ分析班を発足させたり、と昔に比べれば大きな進歩を見せています。かつては新聞社の中でも、関心が高くなく、記事にしていくのが今にも増して非常に大変でした。このWEBRONZAのように子どもポルノについての話題が選ばれるということ自体、以前では考えられないことです。そういう意味では、法律ができ、少しではありますが、世の中の変化を感じます。

 しかし、子どもポルノ事件の犠牲者は増え続けています。

 警察庁が4日、発表した統計によると、今年1~6月に全国の警察が摘発した子どもポルノ事件は649件(前年同期比9.1パーセント増)、逮捕されたり送検されたりした人は455人(同9.4パーセント増)で、被害を受けた子どもは前年同期比14.4パーセント増の310人でした。10年前と比べると、被害者は12.4倍になっています。

 これは摘発されたものだけですから、氷山の一角と考えるべきでしょう。

 しかも、現在の法律では、子どもポルノは、「18歳未満の子どもの裸や性行為などを記録した写真や映像で、性欲を刺激するもの」と定義され、販売や製造、陳列のほか、販売目的の所持を禁じているだけです。先日、民主党のワーキングチームがまとめた改正案では、そうした映像や写真を繰り返し購入して取得する行為に罰則を新設するという柱が盛り込まれています。この改正案でも、いわゆる「単純所持」といわれる、個人的に「楽しむ」ために所持していたり、個人的に見たいとして画像をダウンロードしたりする行為は、現段階では処罰の対象ではありません。「過大な処罰は適当でない」と見送られたと、報道されています。

 「単純所持」をめぐっては、メールで画像が勝手に送られてきたり、たまたまアクセスしてしまったりしたケースなどで摘発されては困るといった、捜査権の乱用を懸念する声が大きいのが実情です。もちろん、捜査権の乱用への懸念は理解できますが、「単純所持」については10年近く、日本の課題とされてきた問題です。

 「単純所持」を禁じていないのは、主要8カ国(G8)の中では、ロシアと日本だけです。これだけネット環境が飛躍的に進歩している中、対策強化は必須です。

 一度撮影されたものはネットの世界に流出すると、その画像や映像はその後回収するのは不可能でしょう。その子どもは、大人になってからも、何千回、何万回と、権利を侵害され続けます。彼女、彼らの精神的な被害は一生涯続きます。

 近年は、日本で母親がお金欲しさに、自分の3歳の娘の画像を販売したケースもありました。母親には「大したことない」という意識があったと思われます。子どもポルノそのものが、規制の対象なのだという認識をもつ必要があるのではないでしょうか。

 外国では、実写でない画像も規制している国があります。いわゆる漫画やアニメなどです。存在しない、架空の子どもが蹂躙される画像ですが、日本では東京都がこうした漫画などを規制する条例を制定しようとして、多くの反対が出ました。日本の歴史的な背景から、表現の自由への侵害への危惧、さらには捜査権の乱用への懸念が反対の理由です。

 ただし、単純所持についてもそうですが、こうした反対、賛成の議論を聞いていると、

・・・ログインして読む
(残り:約970文字/本文:約2985文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

大久保真紀

大久保真紀(おおくぼ・まき) 朝日新聞編集委員(社会担当)

1963年生まれ。盛岡、静岡支局、東京本社社会部などを経て現職。著書に『買われる子どもたち』、『こどもの権利を買わないで――プンとミーチャのものがたり』、『明日がある――虐待を受けた子どもたち』、『ああ わが祖国よ――国を訴えた中国残留日本人孤児たち』、『中国残留日本人』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

大久保真紀の記事

もっと見る