メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

県民を疑心暗鬼に陥れた責任は重い

大矢雅弘

大矢雅弘 ライター

九州電力の玄海原発の再稼働をめぐる「やらせメール」問題で、古川康・佐賀県知事は8月9日の県議会特別委員会で、自身の発言を九電が誤解したのが原因と強調した。さらに「反省すべきところはあるが、有権者への背信行為とは考えていない」と述べた。

 古川知事は元自治官僚。長崎県総務部長などを歴任した後、2003年4月、当時現役最年少の44歳で知事に初当選し、現在3期目だ。

 NPO法人「市民オンブズマン連絡会議・佐賀」の共同代表で佐賀大経済学部教授(政治学)の畑山敏夫さんによると、古川知事は「政策的にも新しい世代」という。

 古川県政の特徴でもあるマニフェストには、「情報公開全国ナンバーワン」や映像産業の集積をめざす「アジアのハリウッド構想」など斬新な政策が盛り込まれた。ただ、「国策には弱いと以前から言われていた」と畑山さん。その典型例が新幹線と原発だという。

 原発との関係で言えば、各地で難航していたプルサーマル計画に06年3月、全国で初めて同意を表明したことでも知られる。プルサーマル導入に先立ち、05年12月に県が開いた公開討論会で、参加者782人のほぼ半数を九電や関連会社が動員していたことが7月29日に判明している。九電による大量動員の問題は県議会でも指摘されながら、古川知事は調査せず、放置していた。

 今回、古川知事には再稼働に対するものすごい使命感があったのではないか、と畑山さんはみる。ところが、原発から脱する方向にいってほしいという世論が圧倒的になる中、古川知事に「ここでしくじってはいけない」という焦りが出たのでは、という。

 07年に市民団体が求めた、プルサーマル計画の是非を問う県民投票は実現しなかった。その際、古川知事は「議会制民主主義の中で、必要な議論と手続きを一つひとつ丁寧に積み重ねて慎重に判断したものであり、県民の意見は十分踏まえている」と述べた。

 畑山さんは「原発問題については知事が県民投票を否定する理由がなくなった。県民の代わりに判断して決断する知事の役割は失格だ。知事自らが条例を提案して、県民投票で県民に決めさせてほしい」という。

 反原発の市民団体からは「プルサーマルを白紙に戻すべきだ」との声も上がっている。

 「これまでの知事の言動との落差がすごく大きい。今回の知事の非常識ぶりには、本当に同じ人なのかと感じる」。県民向けに原発の安全性を説明する国のテレビ番組に出演した県民代表7人の一人で映画評論家の西村雄一郎さんも深い落胆を味わった。

 西村さんによると、古川知事は非常に気さくな人柄で、四半世紀の歴史を誇る古湯映画祭にも毎年、訪れてきた。その際も公用車は使わず、タクシーで会場に来る。「公私混同はしない人だ」と受け止めていた。

 ところが、

・・・ログインして読む
(残り:約448文字/本文:約1587文字)