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メールから伺える姿は芸人でなく準構成員

西岡研介

西岡研介 フリーランスライター

この騒動の取材を2年にわたって続けた私は、その取材結果を「襲撃 中田カウスの1000日戦争」という本にまとめたのだが、この取材を始めた動機についてエピローグで次のように述べた。

〈私は、この林マサの告発手記に端を発したマスコミによる一連の“吉本バッシング報道”にも、軽い苛立ちを覚えていた。

 今回のお家騒動を報じるメディアには、芸能評論家や、作家のセンセイ方が登場し、吉本の現状を様々に嘆いていた。例えば、こんな風に……。

《笑いと夢を売る会社が不明朗な経営や暴力団との関係を疑われるなんて、笑えない悲劇だ》(07年5月26日付読売新聞夕刊)

 はっきり言って、私はこの種のキレイごとを言う人たちが大嫌いだ。

少しでも芸能界や、暴力団の取材をした経験のある記者なら、いや、別に記者に限った話ではない。日本における「興行」というものの歴史を繙けば、昔から、そして今なお、興行の世界が、ヤクザと切っても切れない関係にあることが、誰にでも分かるはずだ。

 しかも吉本興業といえば、日本最古にして、最大の芸能プロダクションである。さらに言えば、本書でも詳述したとおり、同社は(創業者)吉本せいの時代から山口組との関係が深く、弟の正之助(吉本興行中興の祖で、林マサの父)に至っては、その山口組を「日本最大・最強の暴力団」に育て上げた田岡一雄・三代目組長との関係を半ば公言し、果ては山口組の威を借りて恐喝に及び、司直に逮捕されている。

 このような歴史も踏まえずに、今日のお家騒動をいくら報じてみても、浅薄なものにならざるを得ない。私が一連の“吉本バッシング報道”に覚えた苛立ちは、この浅薄さ、に対するものだった〉

 そして今回の紳助引退騒動でも4年前と同様、判を押したような内容の記事や、紋切り型の社説がスポーツ紙のみならず、一般紙にも溢れた。例えばこんな風に……。

〈島田さんの引退を、業界全体が黒い関係を徹底的に排除し、暴力団との交際や取引を断つきっかけにしたい。そのためには、どうすればいいのか。芸能界自体の自浄能力も問われている〉(8月25日付毎日新聞)、〈芸能界は特別な世界ではなく、芸能人も一人の社会人である。ことは紳助さん個人の問題にとどまらない。これを機に業界全体の再点検が必要だ〉(同日付、東京新聞)

 いずれの主張もお説ごもっともだ。が、芸能界、あるいは芸能人とヤクザとの癒着が発覚する度に、十年一日のごとくの紙面を展開し、まるで「官民一体となった暴追運動の標語」のような社説を書いて正直、よく嫌にならないものだ……。こう思う理由についても私は、前述のエピローグでこう書いている。

〈というのも、そもそも私は、芸人とヤクザは“同根”だと思っているからだ。

 歌舞伎役者をはじめとして、芸能に従事していた人々が、近世まで「河原者」と呼ばれ、庶民の憧れであると同時に、蔑視の対象だったことは最終章で詳しく述べた。だが、ヤクザや博徒、的屋(香具師)と呼ばれる人々も、「遊女」らと同様、もとはといえば社会から差別され、排除された「河原者」の集まりだった(ヤクザの起源には諸説あるが、私はこの「河原者」起源説を支持している)。

彼らの違いは芸を売るか、侠(おとこ)を売るか、春を売るかに過ぎず、もともと同根の彼らが互いに惹かれ合うのは当然のこと、と私は思っている。

 だからこそ、今日においても、ヤクザは芸人や芸能人のタニマチ(スポンサー・後援者)になりたがり、ヤクザと付き合っていることを吹聴し、自慢する芸人や芸能人が少なくないのだ〉

 言っておくが、1957年に前出の田岡組長が「神戸芸能社」を設立するはるか昔から、骨がらみとなっていた芸能人とヤクザの関係は今後も決して無くなることはない。が、その一方で、コンプライアンス喧しい昨今、もはや「芸人とヤクザの癒着は日本の伝統文化」などという主張が受け入れられるはずもなく、だからこそ吉本興業は今回、紳助に引退を迫ったのである。

 では、なぜ、会見での紳助風に言えば、前述の中田カウスは「セーフ」で、島田紳助は「アウト」だったのか。それは2人のヤクザ組織との“距離”の違いにある。みたび、拙書のエピローグから引用する。

〈この山口組五代目・渡邉芳則元組長との《交流》の詳細について私は、約2年に及ぶ取材の中で、何度もカウスに問い質した。しかし、彼はその度に、本書で語った以上の《交流》はないと断言した。(中略)そして彼は、取材中に度々、こう語っていた。

「あのね、西岡さん。僕は“芸人”なんです。芸人である以上、堅気の人でも、ヤクザでもお客さんはお客さんですわ。劇場に見に来てくれたり、街で『師匠!』って声かけられて、相手がヤクザやからいうて、入場断ったり、無視したりできますか?

 ただこれだけはよう分かっといて欲しいんですけど、僕は今まで、いわゆる『暴力団』って呼ばれる人らの片棒担いだこと、一度たりともないんです。そんなことするぐらいやったら、とうの昔に芸人、辞めてますわ」

 前述の通り私は、カウスの10数回に及ぶインタビューの間も、その話の裏を取るため、様々な暴力団関係者を取材した。そしてそれらの取材で得た情報を、彼に確認する度に、カウスとの間で微妙な緊張関係が生まれた。しかし結果的には、彼が暴力団の犯罪に加担しているといった事実も、その資金源に関係しているという事実も確認することができなかった。

 むしろ今回の取材で浮かび上がってきたのは、ヤクザといわれる人たちと、絶妙な距離感を持って接しているカウスの姿だった。

 そしてこの取材の過程で、逆に、彼がヤクザとの間に保っている距離感に比べれば、彼らとの距離が近すぎるのではないか……と思われる芸人や芸能人が複数浮上したのも事実だった〉

 その〈ヤクザとの距離が近すぎる芸人〉の1人が今回、引退に追い込まれた島田紳助であることは言うまでもない。

 『週刊朝日』(9月9日号)は今回、吉本が紳助に引退を迫った根拠になった、彼の「昔からの友人」で、元ボクシング世界王者の渡邊二郎被告(未公開株の売買を巡った恐喝未遂事件の裁判で上告中)と紳助との間で交わされた106通のメールの全文をスクープした。それを見ると、紳助がいかに、大阪府警から〈山口組系極心連合会特別相談役〉と認定されている渡邊被告、 ・・・ログインして読む
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筆者

西岡研介

西岡研介(にしおか・けんすけ) フリーランスライター

【2015年3月退任】フリーランスライター。1967年、大阪市生まれ。91年に神戸新聞社入社、阪神淡路大震災や神戸連続児童殺傷事件などを取材。98年以降、『噂の眞相』編集部、「週刊文春」記者、「週刊現代」記者を経て、現在はフリーランス。著書『マングローブ――テロリストに乗っとられたJR東日本の真実』で08年、講談社ノンフィクション賞を受賞。

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