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認定が事実なら贈収賄、摩訶不思議な判決

魚住昭

魚住昭 魚住昭(ジャーナリスト)

9月26日、東京地裁で言い渡された陸山会事件の判決は摩訶不思議な代物だった。

 地裁の認定によれば、石川知裕・衆院議員と大久保隆規・元秘書は、岩手県・胆沢ダムの下請け工事受注の謝礼として水谷建設から計1億円ものヤミ献金を受け取り、その事実を隠すために政治資金収支報告書にウソの記載をしたということになる。

 もし、これが事実なら、陸山会事件の実態は単なる政治資金規正法違反ではない。極めて悪質で、巨額の“贈収賄”だ。しかも2人は法廷で無実を主張し、反省の色を見せていない。司法関係者の常識だと間違いなく実刑のケースである。だが、実際に言い渡された判決は大久保氏に禁固3年・執行猶予5年、石川氏に禁固2年・執行猶予3年だった。

 判決の奇 妙さは、大久保氏と石川・池田光智両氏との共謀を認定した部分にも表れている。検察側は石川氏が04年分、池田氏が05年分以降の政治資金収支報告書を虚偽記載する際に会計責任者の大久保氏に報告して了承を得たとして同氏を起訴した。だが、今年6月末に東京地裁が下した証拠決定では大久保氏と石川・池田両氏が互いの共謀を認めた検事調書は違法な「切り違え尋問」や「検察官による威迫、利益誘導、長時間の取調べ等の結果録取された」もので、任意性がないとして証拠採用されなかった。

 つまりこの決定で大久保氏と石川・池田両氏の共謀を具体的に証明する証拠は排除されたのに、判決は3人の間で虚偽記載についての「共通の認識が形成された」ことを認め、大久保氏に「概括的な故意が 認められることはもとより、共同正犯としての責任も肯定できる」とした。これは常識では考えられない、支離滅裂な判断である。

 なぜこんな矛盾だらけの判決が出たのだろうか。正直言って、私が持ち合わせている情報だけでは明確な説明ができない。ただ、この事件の推移を振り返れば、石川氏らに執行猶予判決が言い渡された理由は自ずから浮かび上がってくるのではないか。

 もともと陸山会事件の本丸は冒頭に触れた水谷建設のヤミ献金だった。特捜部の調べに水谷建設の元社長が「六本木のホテルで石川秘書(当時)に5千万円入りの紙袋を渡した」と供述した。これが裏付けられれば小沢氏本人も逮捕できる、と特捜部は色めき立った。

 だが、十分な証拠が集まらなかった。まず、元社長 の供述を裏付ける現金授受の目撃者がいなかった。当日、元社長をホテルに運んだという水谷建設の運転手の供述も曖昧だった。さらには石川氏が受け取ったとされる5千万円の行方も特定できなかった。

 そこで浮上したのが不動産購入をめぐる政治資金収支報告書の虚偽記載だ。ヤミ献金に比べると悪質性のない「形式犯」だが、購入時期のズレや、小沢氏個人からの借入金の不記載といった外形的事実の立証は容易だった。これを入り口に石川氏らを逮捕し、ヤミ献金受領を自白させて小沢氏の逮捕に漕ぎ着ける―それが特捜部の描いたシナリオだった。

 しかし石川氏は昨年1月15日に逮捕されてからヤミ献金受け取りを否認し続けた。彼の獄中日記には「アリバイを証明して断固戦う」(1月20 日)「副部長から水谷についても立証できると言われた。本当にとんでもないことだ。検察は事件を作るといわれているが、本当だ」(1月27日)「副部長は小沢事務所が何千万円もゼネコンからもらったと思い込んでいる。何を言っても無理だ」(2月1日)と調べの模様が記されている。

この取り調べで検察側が得た心証は、石川氏が保釈後に再聴取を受けた際、ICレコーダーに秘かに録音していた田代政弘検事との次のやり取りを見ればよく分かる。

 田代検事「(陸山会が小沢氏から土地購入資金として借り入れた4億円が)汚いカネだっていうのは、検察が勝手に言ってるだけで、そんなのは別に水掛け論になるから相手にしなくていいのよ。証拠ないんだから」

 石川氏「まだ検察の中には、私が5000万円を受け取っていると思っていらっしゃる方がいるんだろうから、それはちょっと残念ですよね」

 田代検事「いいんだよ。それはもう、そっちの方がむしろ多いくらいでね。やっぱりさあ、なんて言うかなあ、そこのところは、ちゃんと理解しているのは、僕と吉田正喜(副 部長)しかいないと思うんだよ。・・・吉田正喜もずるいから、そういうところは絶対公には言わないんだけど。あの事実はありませんね、とかは言わないんだけど。はっはっは」

  石川氏「田代さんが言ってたように、逮捕される前にね、(1月)13日の強制捜査の前かな。早く認めないと、ここは恐ろしい組織なんだから、何するかわかんないだぞって、諭してくれたことがあったじゃないですか」

 田代検事「うんうん」

 石川氏「あそこまで言われて、それでもなおかつ私が認めていないわけですよね」

 田代検事「はっはっは。うんうん。ま、だから逆に言えば、吉田正喜や僕の言うことが信用されていないっていうことだよね。上層部にね……俺も忸怩(じくじ)たるものがあんだけどさー」

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筆者

魚住昭

魚住昭(うおずみ・あきら) 魚住昭(ジャーナリスト)

ジャーナリスト。1951年、熊本県生まれ。一橋大法学部卒。75年、共同通信社入社。社会部記者として87年から司法クラブに在籍しリクルート事件などを取材。96年退社。司法分野や人物フィクションの執筆をしている。著書に『特捜検察』『渡邉恒雄 メディアと権力』『特捜検察の闇』『野中広務 差別と権力』(講談社ノンフィクション賞)など。2014年6月、WEBRONZA筆者退任

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