宇野常寛(うの・つねひろ) 宇野常寛(批評家)
批評家。1978年生。批評誌〈PLANETS〉編集長。文学、サブカルチャー、コミュニケーション論など幅広く評論活動を行う。著書に『ゼロ年代の想像力』。共著に更科修一郎との時評対談集『サブカルチャー最終審判 批評のジェノサイス』。近著に『母性のディストピア(仮)』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
宇野常寛
あまり知られていないが、「仮面ライダー」シリーズは2000年における事実上の再スタートによって大きく息を吹き返し、2011年現在まで13本もの作品が絶え間なく放映され続けている。1971年に登場した初代「仮面ライダー」が「変身ブーム」として社会現象化したときでさえ、そのシリーズ放映期間は5作品で5年弱だったことを考えれば、この「平成仮面ライダーシリーズ」のヒットがいかに大きな規模で長期にわたっているかが分かるだろう。仮面ライダーはむしろ21世紀に入ってから国内におけるキング・オブ・ヒーローの座についたとすら言えるだろう。
本稿に与えられた「お題」は「仮面ライダーの描いてきた<正義>」である。このテーマについてはこの夏上梓した拙著「リトル・ピープルの時代」(幻冬舎)で400字詰め原稿用紙数百枚をかけて論じているので、ぜひそちらを参照していただきたい。ここでは時間と紙幅の関係上、ごくごく簡単にエッセンスだけを記そう。
私が注目するのは平成「仮面ライダー」シリーズ(の一部)がいわゆる「勧善懲悪」の物語を積極的に放棄することで、むしろ現代的な正義の問題を扱うことに成功していたことだ。たとえば第三作「仮面ライダー龍騎」はそれぞれの正義を抱える13人の仮面ライダーが殺し合う物語を描き、広い支持を集めた。同作を企画するに辺り、制作会社東映のプロデューサー・白倉伸一郎は前年に発生したアメリカ同時多発テロを受けて、子どもたちに正義とは何かを考えてもらうための作品を志したという。つまり複数の正義が