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ジョブズ氏の本質は「こだわり」にあった

西田宗千佳

西田宗千佳 西田宗千佳(フリージャーナリスト)

先週5日以降、スティーブ・ジョブズ氏がなにを残したのか、という記事がメディアにあふれている。Twitterなどのソーシャルメディア上でも、彼とアップル製品に関する謝辞が止まらない。私も、彼と彼の作った企業が生み出した製品に大きな影響を受けた一人であり、心から尊敬と感謝の念を伝えたいと思う。

 だが他方で、違和感を感じる点も少なくない。

「彼がいなければ、パソコンもスマートフォンもなかった。マウスも彼の発明」「彼がいなくなったら新しいものが生まれづらくなる」

 それはどうだろう。

 彼は「発明家」でも「研究者」でもない。起業家だ。すべてを生み出した神のようにたたえることは、むしろ彼と、彼が本当に生み出したものに失礼なのではないか、と感じるのである。

 では彼が起業家として、モノを作る企業のトップとして生み出したものはなんなのか?

 それは「商品を良いものにするためには、自社や業界の事情よりも優先せねばならないことがある」という事実を、コンピュータの世界に持ち込んだことだ。

 例えば、ノート型のマックの「裏」には、細かな注意書きやシールがほとんどない。表にも、CPUメーカーやOSメーカーの「ロゴシール」はない。これらのものは、ほとんどが企業側の事情でつけられるもの。デザインを良くするためには邪魔なものだ。多くの企業は、そこでコストやリスク軽減を重視し、デザインの面で妥協する。だがアップルはそうしない。なぜなら、そういうところで妥協することをジョブズ氏が嫌うからだ。

 操作性や画面の美しさについても同様だ。技術的な難点があっても、「より美しく見えること」「より簡単に、なめらかに使えること」を重視する。1984年に最初のマッキントッシュを作った時にも、利用する書体や操作中の「画面の切り替わり」にこだわった。当時の技術では、それを実現するためにコストやスピード面で無理があるにも関わらず、だ。だがそうした伝統が、デザイナーやクリエイターに愛され、アップルという企業の「軸」となり、今の成功へとつながっている。

 自社が売る製品に、経営者がどこまで「こだわり」を見せることができるのか。妥協すべきでないと自身が感じた時、それをいかに自社内へ浸透させることができるのか。

 大きな企業になればなるほど、それは難しくなる。ジョブズ氏が本当にすごかったのは、

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