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放射能汚染の中での復興とは

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

先日、福島市で開かれた「飯舘村の『今』と『これから』――村民にとっての復興とは――」という緊急集会に行ってきました。

 計画的避難区域に指定されている飯舘村の住民たちがあちこちの避難先から集まり、福島市内の人たちも参加して、100人以上は集まってい たでしょうか。

 この集会の少し前、村は2年以内に除染作業を進め、住民が戻る計画を発表しました。日常生活を送る家の周辺は2年かけて放射線量を年間1ミリシーベルト以下に低減し、農地は5年、森林は20年かけて、放射性セシウム濃度を土壌1キロあたり1000ベクレル以下に下げる、としています。

 この記事を読んだとき、私は何も現地のことを知りませんでしたが、「そんなに簡単にいくのだろうか」と率直に思いました。飯舘村だけではないですが、「除染、除染」と除染をする計画や見通しなどが次々に発表されていくことに、何か居心地の悪さを感じていました。

 もちろん、放射能の影響で、ふるさとを終われている人たちが除染によって我が家に戻れるのなら、それは喜ばしいことです。

 しかし、「除染」によって住民が戻るという計画は、復興に向けた動きが進んでいるということをことのほか印象づけ、被害を小さく見せる効果があるように思えます。作られた「復興」のにおいを感じざるを得ません。

 そんなもやもやした思いを心の隅に抱えて、前述の集会に行きました。

 パネリストとして登壇した村の前田地区の区長で酪農家の長谷川健一さんの言葉は心に突き刺さりました。話は、震災直後のことから始まりました。

 震災後、乳搾りを続けていた3月14日に村役場に行くと、放射線について「とんでもない数字になっている。40(マイクロシーベルト/時間)を超えている」と職員が話してくれたそうです。それを聞いた長谷川さんが帰ろうとすると、呼び止められ、「この数字はだれにも言わないでくれ、村長に止められている」と念を押されたそうです。しかし、区長の長谷川さんは帰ってすぐみなに連絡、翌朝午前6時半に区で緊急集会を開いたそうです。今思うのと、長谷川さんは「悪いことをした」と地元なまりで話します。降っていた雨が雪になり、一番放射能が高いときだった、と振り返りました。当時は、そんなことは知るすべもなく、長谷川さんは住民たちに外には出ない、肌を露出しない、どうしても外に出なくてはならないなら帰ってきたら玄関で服を脱ぐ、外にある野菜は食べない等々の注意をしたそうです。

 福島第1原発の事故後の状況が「過小評価されていた」と長谷川さんは言います。長谷川さんの隣に座っていたパネリストで、農家の菅野哲さんも「3月15日から17日に放射線量が高くなり、避難すべきだと村に言ったが、村は動いてくれなかった」と発言しました。

 そして、震災から1カ月以上して、国は飯舘村を「計画的避難地域」に指定し、村民に避難を求めました。村民は苦渋の思いでふるさとを離れます。

 飯舘村は自立自給の持続可能な村づくりを、村と村民が一丸となってコツコツと進めてきた村です。手を抜かない、手をかけるという意味の「までい」という言葉をキーワードに米作を中心にブランドの肉牛を育て、有機農業を手がける農家も多かったといいます。

 そして、いま。村民とともに丁寧な村作りをしてきた村長が除染計画を発表しています。長谷川さんは言います。「村長は除染の方向に走っている。だが、その根拠はどこにあるのか。山の除染もしなくてはならない。プルトニウムも出てきている。どうなってしまうのか」と。

 「ふるさとだもん、帰りたい。(年間)20ミリシーベルト以下なら帰っていいと言われれば、私らより上の年代(長谷川さんは50代後半)は帰る。だが、子どもや孫は絶対に帰さない」と力を込めます。「我々が飯舘で一生を終えれば、村はおしまいになる。飯舘に戻るか、飯舘を出て家族で暮らすのか、いつかはそういう決断をしなくちゃいけないときが来ると考えている」

 長谷川さんのとつとつとした語り口に胸が痛くなりました。いかに、自分が実情を知らなかったのかということを突きつけられました。

 地元の若者を中心とした「負げねど飯舘!!」で活動する29歳の佐藤健太さんも壇上で発言しました。「村は除染を進めるといっているが、それでいいのだろうか。緊急雇用対策で作業をするのは村民ではないか」と問題提起しました。佐藤さんは県外に出ると、自分たちの情報が届いていないことを感じるとも発言しました。「このままでは(我々のことは)忘れられてしまうのではないか」と不安になるそうです。「だから、声をあげていきたい」と強調しました。

 会場からは、Iターンで戻ってきた男性たちからも村の除染計画への批判が噴出しました。また、

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