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5人での再開を望まないファンがいる理由

澁谷知美 東京経済大准教授(社会学)

ふだんWEBRONZAにおいて編集部が執筆者に推奨する記事の分量は最大1500字である。しかしながら、2009年7月にファンになって以来、5人の時も2人になってからもありったけの愛情と時間とお金を東方神起に注いできた筆者にとって1500字で今回のテーマについて論じるのは端的にムリであり、仕方がないから約8000字で書く。ちなみに原稿料は文字数にかかわらず一律である。

 なお、情報通のトンペンさん、JYJペンさんにおかれましては(1)、目新しい情報はほぼないのでご了承いただきたい(ファンの立場を分類した表はちょっと面白がってもらえるかもしれないけれど)。「会社もファンもなんでこんなにモメてんの?」という、よく事情を知らない人向けに書く。

 というか、よく事情を知らない人は、会社はともかくファン同士がモメていることすら知らないかもしれない。いやー、すごいモメ方なんすよ。意見や立場の割れ方がハンパない。ためしに表に整理してみたらすくなくとも136種類の立場があった(後述)。マスコミは「嬉しいでしょ?」とばかりに5人での再開をほのめかすニュースを流してくるが、ファンの全てがそのニュースを喜んでいるわけではない。しかも喜ばない人は決して少数派ではない。このあたり、きちんと指摘している記事を管見の限り見たことがないので、強調しておきたい。

 ということで、今回取り組みたいのは、「東方神起の5人での再開を望まないファンがいるのはなぜか」という問いである。以下ではこの問いを解くために、次の順番で話を進める。

 【1】分裂までの道のりと分裂後を概観

 【2】多様すぎるファンの立場を概観

 【3】東方神起の5人での再開を望まないファンがいる理由を説明

 【4】5人での活動を再開させたい関係者へ私見

 なお、こういう記事は「中立」の立場で書かなくてはならないのだろうが、筆者は旧・現体制の東方神起のファンであり、JYJにかんしては、かつて好きだった人に覚える程度の愛着を覚え、アルバムも聴くが、それ以上のことはしていない(5人時代の作品は楽しく視聴している)。「中立」的記述を心がけはするが遂行は困難であろうことを予め述べておく。下手に「中立」のフリをするより立場をあらかじめ明かしておいたほうがフェアな気がする。それに、本件に限らずあらゆる社会問題において「中立」を標榜する人が中立であったのを見たことがない。

【1】分裂までの道のりと分裂後

 最初に分裂までの道のりと分裂後の様子を見てみたい。どうしてもJYJの記述が多くなるが、それはアクションを起こした側であるためで、他意はない。

 念のため説明しておくと、東方神起は韓国の芸能事務所SMエンタテインメントが手塩にかけて育て、2004年に満を持してデビューさせた5人組男子アイドルグループである。既成のアイドル概念を塗りかえるハイレベルな歌とダンス、気さくなキャラクターで韓国・日本だけでなくアジア全域のファンに愛されてきた。韓国ではあっというまにスターダムにのしあがったが、日本では売れるまでに数年を要した。下積みを経て2008年末に紅白歌合戦に出場、2009年7月に悲願の東京ドーム公演を成功させる。

 順風満帆のキャリアに影がさしはじめたのは東京ドーム公演に先立つ2009年6月ごろ。ジェジュン、ユチョン、ジュンスおよび3人の親族と、彼らが開始した化粧品事業を快く思わなかったSMとの関係が悪化する。2009年8月1日、3人側は専属契約の効力停止仮処分訴訟を申請する。同月3日に3人の代理人である法務法人・世宗がマスコミに送った報道資料には、1日に3~4時間の睡眠しか取れないハードなスケジュール設定、13年もの長期契約、アルバムが50万枚以上売れた場合にやっと次回アルバム発売時に一人あたり1000万ウォンのみが支給される収益の少なさなど、SMの労働契約の「不当さ」が述べられていた。同時に、今回の件はあくまで労働契約問題であって化粧品事業とは無関係であること、そして3人に解散する意志はないこともはっきりと述べられていた(2)。

 審問が始まった。他事務所に所属しながら東方神起を続けたいという3人側の主張と、東方神起を続けるかぎりはウチに属さないとダメというSM側の主張が交わることはなく、間は大幅にはしょるが、2010年4月3日に東方神起は活動休止宣言をすることとなる。

 宣言から間もない2010年4月14日、3人は日本での活動をマネジメントするエイベックス・エンタテインメントを通じてJUNSU/JEJUNG/YUCHUN名義での活動を宣言する。6月には東京と大阪でドーム公演を開催、CDやDVDも出す。3人の活動を歓迎する声があった一方、「残された2人の気持ちも考えて」「エイベックスは2人を切り捨てたんだ」という怨嗟の声も上がった。

 3人だけの活動は順調に続くかのように思われたが、5カ月後の2010年9月16日、エイベックスは3人のマネジメントの中断を決定。理由は、第一に3人のマネジメントを行っている韓国法人C-JeSエンタテインメントの代表者が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し、強要罪で実刑判決を受け服役していた過去があったと確認したため、第二に韓国での3人の専属契約確認訴訟の進展により、彼らとエイベックスとの専属契約自体が無効とされる可能性が高まってきたためと説明される(3)。

 エイベックスがマネジメントを中断して以降、JYJの日本での活動範囲は著しく狭められることとなる。当然、新たにCDやDVDを出すことはできない。テレビ出演もできない。今年6月7日のさいたまスーパーアリーナで予定されていたチャリティイベントは、「契約に関する問題」が存在しているなか利用許可は出せないと会場側が貸し出しを拒否(4)、急遽両国国技館で開催されることとなった。

 韓国においてもJYJの歌番組への出演はなく、テレビで見られるのは殆どドラマと番宣のための情報番組へのゲスト出演のみという状態が続いている。ケーブルテレビQTVでリアリティ番組が放送される予定だったが、突如キャンセルとなった。韓国、米国、タイでの公演はおおむね成功させているが、ハワイ、シアトル、サンフランシスコの公演が中止になったり、有料公演が急遽無料公演になったことで損害を被ったコンサート投資者が所属事務所の社長を告訴するなどトラブルも目立つ(5)。

 アルバムのセールスは好調である。韓国で発売した初アルバム『The Beginning』は2010年9月の発売から同年末まで韓国で約29万枚(バージョン違い含む)(6)、今年9月リリースの『In Heaven』は発売から3日間で16万5000枚売り上げた(7)。茨城県で行われた10月15・16日のチャリティコンサートは中央日報の報道によれば2日間で8万人を動員した(8)。とはいえ、5人だった頃に比べれば活動範囲が狭まったのは確かだ。

 では、SMに残ったユノとチャンミンの2人はというと、詳細はかなり、かーなーりー大幅にはしょるが、訴訟問題が起こりはじめた2009年夏あたりから5人での活動は減り、個人でドラマ、ミュージカルなどに出演する日々が続く。上述のとおり、2010年4月に5人での活動休止宣言。2010年夏から秋にかけてSM所属歌手が揃うライブに登場した以外は目立った活動はなく、2人を支持するファンの間では悲しみの声が上がっていた。

 2011年1月から東方神起を2人で本格再始動。再始動初アルバム『Why?~Keep Your Head Down』は1~6月集計で韓国で約30万枚(バージョン違い含む)(9)、日本で出した同名の再始動初シングルは初週売り上げで約23万枚(10)、今年9月リリースのアルバム『TONE』は初週売り上げで20万5000枚を記録(11)。アルバムプロモーションのため9月末から10月半ばにかけてほぼ毎日テレビに出演し、約30誌の雑誌に掲載され(12)、今度は「追いかけるのが大変」という嬉しい悲鳴が2人を愛するファンの間で聞かれることとなる。

 片や、エイベックスに「切られた」形になったJYJを支持する人びとは、エイベックスを冷やかな目で見ている。先日の茨城でのコンサートでは、「オリコンに入らなくてもいいから日本で活動をしたい」というユチョンの発言があり、泣いているファンの姿が見られたという(13)。

【2】多様すぎるファンの立場

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筆者

澁谷知美

澁谷知美(しぶや・ともみ) 東京経済大准教授(社会学)

東京経済大准教授。1972年大阪市生まれの千葉県育ち。東大大学院教育学研究科博士課程修了。専門は社会学および教育社会学、主な研究テーマは男性のセクシュアリティの社会史。単著に『日本の童貞』『平成オトコ塾 悩める男子のための全6章』『立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史』、共著に『性的なことば』などがある。【2015年6月WEBRONZA退任】

 

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