辰濃哲郎
2011年10月27日
テロから2日後、朝日新聞社会部デスクとして現地入りした私は、ナショナリズム一色に染まるニューヨークの街に圧倒されていた。
崩落した貿易センタービルで救出作業に当たる消防隊員たちが縄張りの外に出てくるたびに、見物人らが拳を振り上げて「USA!」の大合唱が始まる。ビルの窓には、判で押したように「We are still standing!」の檄文が並ぶ。
その高揚感が、アルカイダやビン・ラディンへの報復への熱烈な支持へとつながっていくのは時間の問題だった。
そんなときだ。タイムズスクエアの中心部の歩道で、一人の若い黒人男性の姿が目にとまった。ラジカセを前に首をうなだれて祈っているように見える。かけていた曲はビートルズの「イマジン」だった。
私なりに歌詞を意訳すると、こんな感じだ。「国境もなくなることを想像してごらん。殺したり殺されたりすることもなく、宗教もない。人々が平和の中で暮らすことを」
つまり、「武力による報復」に突き進む米国に、ささやかな抵抗を試みているのだ。報復は新たな報復を生む。その連鎖には、終わりがない。そう言いたかったのだろう。
もちろん私はテロ行為を正当化するつもりはない。だが、「正義」の応酬を解決するための糸口は、武力行使しかないのだろうか。そんな疑問を抱かせてくれた「イマジン」は、その後、米国では放送が自粛された。
約1カ月にわたる取材から帰国した直後の10月8日、米英軍によるアルカイダの拠点があるアフガニスタンへの空爆が始まった。
その日の
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