倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹
1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。
倉沢鉄也
シーズン途中、それも優勝にからむチームの首脳陣退任の報道が、チームのカンフル剤になるケースはきわめて少ない。今年も日本ハムファイターズは梨田昌孝監督の退任発表とともに失速し、クライマックスシリーズも3位の西武ライオンズに敗退した。こうした発表がチームにプラスの影響を何も及ぼさないこと、球団経営陣の配慮不足または悪意以外の何者でもないことを、1994年に同じことを体験した森祇晶氏(元・西武監督)が述べている(10月19日 日刊スポーツ)。中日経営陣の真意は不明だが、彼らも球団経営の素人ではなく、そのようなタイミングでの報道発表が何を意味しているのかをあえて意図しての発表であったと思われる。そのタイミングの悪さ、親会社である中日新聞社のビジネスのあらわな意図、それが落合監督本人と選手に与えた心象の悪さについては、監督自身の優勝手記に語られている(10月19日 日刊スポーツ)。しかし結果として、それらは優勝の原動力になった。
日本のプロ野球は、いや米国すらも、一般の人々の印象と異なり、本来的にビッグビジネスではなく、また利益率の高いビジネスでもない。対巨人戦=国民的テレビ番組という地位と、急激な経済成長から「流出」した広告収入が、放映権収入に還元される時代は終わった。収益の源泉は本拠地を中心とした集客(入場料+飲食等のテナント料)とグッズ販売になっている。球団の人気は究極的には現役選手たちの活躍であり、活躍とはすなわち勝つことである。
この点、長らく実力が認められながらもぴりっとしない成績(落合監督就任前20年で、リーグ3位以内が12回も優勝1回、日本一ゼロ)が続いていた中日に、落合監督はプロ野球チームの監督・コーチ経験まったくなしで就任し、2004年から8年間でリーグ優勝4回、日本一を含む2位3回、3位1回、と劇的に結果を出すことに成功した。芸能人的振る舞いのない選手と無愛想な監督が、質・量ともに厳しいキャンプ練習を経て、守って勝つチームスタイルを確立し、結果を出した。表層的なファンの人気が球団の収益増に直結する時代ももう終わっている。娯楽産業全体から見て、プロ野球はすでに中高年男性を中心としたマニアックな趣味であり、ニッチなマーケットになっている。
監督退任報道がプラスに働き、統率の取れたチームが勝利したことの接点を語ることは難しいが、誤解を恐れずに言えば、
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?