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鉄壁といわれた読売の結束に露呈した綻び

川本裕司

川本裕司 朝日新聞記者

清武英利巨人軍球団代表(61)が内部告発した以前に、渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長(85)を正面から批判した読売OBがいる。社会部記者、論説委員を歴任した元東京経済大教授のジャーナリスト前澤猛氏(80)だ。

 前澤氏は渡辺会長が日本新聞協会会長に就任し半年後、月刊誌『世界』2000年1月号で、「渡邉恒雄氏におけるジャーナリズムの研究」を16ページにわたり執筆した。鬼頭史郎判事補が1976年、検事総長をかたって三木武夫首相にロッキード事件での指揮権発動をうながす電話をした事件について、編集局次長だった渡辺氏が三木首相に電話した末に記事を抑えようとしたことを明らかにして、ジャーナリストとしての公正らしさや公私の峻別の欠如を指弾した。

 2010年11月には、日本新聞協会機関紙のインタビュー記事で社説をめぐる渡辺会長の虚偽発言で名誉を傷つけられたとして、慰謝料を求めて東京地裁に提訴した。

 前澤氏は、清武球団代表の告発について、「渡辺会長の独断とルール違反の発言が積み重なっていることに思いつめ、会見を開いたのだろう。巨人軍だけではなく長年伏されてきた読売グループでの渡辺会長の問題点が明らかになれば、今回の行動はプラスになる。従来の傲慢な渡辺恒雄体制の地盤が緩んできた兆しかもしれない。」と話している。

 そもそも言論の自由を標榜する新聞社では、報道のあり方などをめぐり上司を批判することがときどき起こる。対外的に会社の姿勢について注文をつけることもなくはない。こうした風土のなかで、首脳批判が皆無だった読売新聞社は異質だった。

 読売新聞の指揮命令の徹底ぶりには定評がある。日本新聞協会で新聞の再販問題継続について取り組んでいたとき、朝の閣議後の記者会見で関係閣僚が再販に関連するような発言をした場合には、その日の午後にある新聞協会の会議で報告するのは決まって読売の出席者だった。

 経営の判断が紙面にはっきりと表れることもある。例えば、新聞経営にかかわる裁判の判決が出たとき、現場では「ベタ記事」と考えても、上層部からの記事で1面と社会面で展開するようなことも起こる。

 こうした上意下達が徹底した会社で、20年にわたりトップとして君臨しつづけている渡辺会長の意向は絶対不可侵だった。

 2007年10月、読売グループ本社社長だった内山斉氏(76)=現読売グループ本社顧問=が主導して、読売は朝日、日経とともに3社でインターネット上の共同事業として読み比べサイト「あらたにす」の開始が発表された。

 関係者によると、この発表があったころ、読売新聞グループ本社取締役相談役だった滝鼻卓雄氏(72)=現読売巨人軍取締役最高顧問=が、

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