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エイベックスとJYJの泥沼裁判(下)

小野登志郎

小野登志郎 ノンフィクションライター

 ■エイベックスがC−JeSを訴え返す

 2011年6月20日、JYJの日本武道館での公演が終わった2週間ほどのち、エイベックスが、今度はC−JeSエンターテインメントやZAKコーポレーション、日本相撲協会を相手取って東京地方裁判所に訴訟を起こす。この裁判は、一部報道などで「JYJに会場を貸した日本相撲協会が訴えられた」というように表記されているが、裁判の内容を見ると、実際にはエイベックスとC−JeSとの争いと言える。裁判所に提出された証拠資料なども、C−JeSがエイベックスを訴えた裁判のものとかなり重複している。

 □訴状(2011年6月20日)より

 ・請求の趣旨

 1、被告らは、原告に対し、連帯して、1億4340万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え

 2、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決及び仮処分宣言を求める。

 ・事案の概要

 原告は、2010年2月26日、被告C−JeSとの間で、被告C−JeSに所属するKIM JAEJUNG、KIM JUNSU及びPARK YOUCHEON(以下、総称して「JYJ」という。)の日本におけるアーティスト活動に関する専属契約(以下「本件専属契約」という。)を締結し(甲5)、JYJの日本におけるマネージメント業務を独占的に遂行する権利を有していたところ、被告C−JeSは平成23年1月21日付通知書において(甲6)、原告に対し、突如、(実際には義務違反は存在しないにもかかわらず、)本件専属契約の義務違反が認められるとして、30日以内に当該違反事項を治癒するように催告するとともに、その後、当該通知に対する当該通事に対する原告の反論(甲7−1)を一切無視する形で、同年2月22日付通知書(甲8)において、当該違反事項が治癒されないまま30日が経過したとして、本件専属契約が解除された旨の通知を一方的に行った。

 その後、被告C−JeSは、コンサートやイベントの企画、制作等を主な業務とする被告ザックとともに、原告の再三にわたる警告を無視して、JYJの参加するコンサート(以下「本件コンサート」という。)の開催を企画し、最初に横浜アリーナに対し、次にさいたまスーパーアリーナに対し、それぞれ利用申し込みを行ったが、いずれの会場からも利用許可を得られなかった。

 しかしながら、被告C−JeS及び被告ザックは、その後も本件コンサートを開催できる会場を模索し続け、最終的に被告相撲協会の管理する両国国技館の利用許可を受けて、同年6月7日、原告の承諾を得ないまま、両国国技館において本件コンサートを開催した。

 本件は、原告が、原告の意思に反して本件コンサートを共同で開催した被告に対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金1億4340万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延害金の支払を求めるとともに、被告C−JeSに対し、債務不履行に基づき、同額の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。被告C−JeSに対する不法行為に基づく請求と債務不履行に基づく請求は、選択的併合の関係にある。

 ・原告が被った損害

 コンサート:1万人×8500円×2回−2000万円[会場運営費]−4500万円[舞台制作費]=1億7000万円

 グッズ:(3500円[記念Tシャツ]+2500円[ストラップ付パンフレット])×1万人×0.8−原価及び手数料60%=3840万円

 計1億4340万円。

 上記エイベックスの主張に対し、C-JeSとZAKコーポレーションは下記のように反論する。

 □C−JeS、ザックの準備書面(2011年9月12日)より

 ・原告の主張するコンプライアンスとは一体何なのか不明である。詐欺罪で有罪判決を受けたばかりのアーティスト(小室哲哉氏)を原告に所属させたり、週刊誌の記事によれば、原告及び親会社である株式会社エイベックス・グループ・ホールディングの代表取締役社長が暴力団幹部と同席して株主を監禁・脅迫したとして提訴(民事)及び告訴(刑事)されたとの報道がなされており、原告にとってコンプライアンスを遵守する必要はないと思われても仕方がない実態が現実化している。

 ・原告の日本におけるJYJの独占的マネジメント業務遂行権は、本件専属契約の解除により消滅した。

 そして、「とばっちり」を受けた形の日本相撲協会は下記のように主張する。

 □日本相撲協会の答弁書(2011年9月8日)より

 ・被告相撲協会の主張

 原告の主張は原告が本件興行権を有していることが前提となっているところ、被告C−JeSはこれを争っており(甲6、甲8)、原告が本件コンサート当時本件興行権を有していたかどうかは不明である。第三者である被告相撲協会は本件興行権の所在につき関知する立場にはないが、原告が本件興行権を有していないのであれば、原告が主張する権利侵害は存在しないので原告の請求は棄却されるべきである。

 仮に原告が本件コンサート当時本件興行権を有していたとしても、以下記載のとおり被告相撲協会は「原告が本件興行権を有していること」は認識していないのであるから原告の主張する共同不法行為は成立しない。

 ・(2011年5月)11日、被告相撲協会は、原告の阿南氏に電話をかけた。原告からは、被告ザックが主宰する本件コンサートは原告のマネジメント権を侵害する行為であるので両国国技館の利用許可を取り消すよう求められた。被告相撲協会は「既に契約が成立しており代金も受領しているので、取り消すことはできない。当事者間で解決してもらいたい」と述べた。同月18日、被告相撲協会は、被告ザックから、本件コンサートの開催に関して原告との間で問題となった際は、被告C−JeSと被告ザックにおいて解決にあたることとし被告相撲協会には迷惑をかけない旨を約した念書(乙6)を受領した。同年6月2日、被告相撲協会は、原告作成の甲28号証の通知書を受領した。同年6月3日、被告相撲協会は、被告ザックが反社会性力に該当しないことを確認する調査を行い、被告ザックが反社会性力に該当しないことを確認した(乙7)。同月7日、本件コンサートが開催された。本件コンサート当日被告相撲協会が行った作業は、両国国技館の提供、及び、施設が適切に使用されているかどうかの確認作業(2名の従業員で行った)のみであり、その他の作業は全て主催者である被告ザックが行った。

 ※甲28号では、執行役員経営戦略本部長阿南雅浩名義で、「たいへん不躾ではございますが、両国国技館の利用をお断りくださいますようお願い申し上げます」と述べられている。

 ※乙7号証(2011年8月29日)は暴力団等排除対策委員会事務局からの報告書となっている。これは日本相撲協会がザックが「反社会性力に該当しないことを確認する調査」を行ったもの。

 ・対象者(株)ザックコーポレーション代表取締役 宮崎恭一

 ・担当者 館貸係 橘職員・藤本職員

 ・紹介及び回答。6月3日。暴力団関係者等の有無を警視庁組織犯罪対策第3課に照会した結果、同日該当なしとの回答を得た。反社会性力(暴力団等)の有無を暴力団追放運動都民センターに照会した結果該当なし、及び全国暴力団追放運動推進センターのシステムの該当なしとの回答であった。当協会暴力団等排除対策委員会委員の深澤、長尾、村上の弁護士3名に相談したところ、外国の暴力組織については、事実確認が非常に困難、もしくは不可能であり、日本の国内法で対処できない部分があるので、既に申し込みを受理して設営準備段階にある催事としては、中止させて行わないよりも、行わせた方が良いとの判断がなされた。

 そして、さらにさらにエイベックスは反論、主張する。

 □エイベックスの準備書面(2011年10月13日)より

 ・被告C−JeS代表者が暴力団幹部の経歴をもつ父親の威力を背景に担当アーティストを恐喝し、強要罪で実刑判決を受け服役していたとの報道がなされて以降、原告のもとに、「スッゴク3人のイメージダウンだし」「すごく、3人にとってもすごく、イメージも悪い。私は、暴力団とのつながりのある人を応援するのは、いやです」や、「東方神起、この3人もクリーンなイメージが大切です!」等のコメントが多数寄せられたことからも明らかである。JYJのクリーンなイメージを確保し、社会的信用を高め、人気を高めるために、「適正・適法」なアーティスト活動に関するマネジメントを行うことは必要不可欠であることから、これが「専ら原告側の問題」といえるようなことではないことは自明である。

 ・被告C−JeS代表者の犯罪行為(自身がマネージャーを務めた俳優に対する強要行為であり、実刑判決が下されている)は、小室哲哉氏の犯罪行為(自身の作曲した楽曲に係わる著作譲渡権をめぐる詐欺行為であるが、執行猶予付き判決に留まっている)と比較して、原告のコンプライアンス上より重大で深刻な事実であることから、これを重く見て、被告C−JeSに所属するアーティストであるJYJの活動を休止したこと十分な合理性が認められるのであって、被告C−JeS代表者の犯罪行為のコンプライアンス上の問題性は著しく低く(原文ママ)、原告の対応に一貫性、整合性がないとする被告C−JeSの主張はおよそ認められない。

 ・この件(松浦社長脅迫事件)について、民事訴訟が提起されているのは事実であるが、同訴訟においても、原告代表者は全面的に事実関係を争っているのであって、いずれにしても週刊誌の記事に記載されているような事実は全く存在しないのである。

 ・被告相撲協会が、被告C−JeS及び被告ザックに対し、本件コンサート開催のために両国国技館の利用を許可した行為につき、不法行為が成立するためには、被告相撲協会において、原告がJYJの日本における独占的なマネジメント業務を遂行する権利を有していると確定的に認識した上、これを積極的に害する意図までは不要であり、原告が当該権利を有すると判断されることによって、結果的に原告の当該権利を侵害してしまう可能性があることを認識しつつ、これを認容するという、未必の故意があれば足りるというべきである。

 どこまで続く泥沼か。しかし、この一連の裁判を見守っている大勢の人間たちがいる。数十万人に上るJYJ(と現体制の東方神起)の熱狂的なファンたちである。

 ■「東方神起」分裂騒動はいったいどこに向かうのか

 そして、C−JeS側の準備書面には次のような記述がある。

 「被告(社長室の若井部長、黒井氏)は、本公演の開催が決定されたことを知り、本公演の開催直前である2011年10月13日、磯崎久喜県会議員と共に、本公演の後援者である茨城県庁(広報室)、水戸市役所、ひたちなか商工会議所、水戸商工会議所、ひたちなか公園事務所を訪問し、(1)本公演を主催しているザックコーポレーションは、右翼と繋がっている反社会勢力である、(2)JYJはビザをとっていない、(3)原告と被告は専属契約を締結しており、被告の承諾なくJYJのコンサートを開催することはできない、(4)(国技館が訴えられたという週刊誌を示しながら)公演を実行したら国技館と同様に訴えられるなどと言って、本公演を中止するよう要請し、(5)もし公演を実行したらマスコミにまきちらしてやると公言した(水戸商工会議所の会頭に対して)」

 JYJという最高級の韓国のスターたちを巡る話に、これでもかというくらい飛び出してくる「暴力団」「右翼」「反社会勢力」云々の言葉たち。水面下の争いは、もはや分水嶺をいくつも越えているかのようだ。

 筆者は仕事であるので、この「裁判記録」にある公になった「事象」を徹底的に取材するつもりではあるが、しかし、冷静に考えれば、双方共にこれ以上やり合っても何の得にもならないようにしか思えない。どうしてそこまで争う必要があるのか。「意地」なのか。それとも……。

 普通のスターならばイメージの低下による人気急減、そして消滅となるケースだろうが、しかし、そこはJYJ。彼らの人気が衰えを見せることは未だにない。

 C−JeS側の準備書面に下記のような記述がある。

 「被告はJYJとS.M.との専属契約が無効であることを前提として、S.M.の妨害行為からJYJを守るということで本件専属契約を締結する運びとなったのである」

 エイベックスとJYJの契約書には、先に記したように「S.M.ENTERTAINMENT CO., Ltd及びその系列会社が、日本国内における(日本市場に向けた)本件アーティストのアーティスト活動を邪魔または阻止する一切の行為を防止するために必要なすべての措置を甲(エイベックス 筆者注)の裁量及び費用で行うこと」が明記されている。

 この間の経緯を要約すれば、JYJのジェジュン、ユチョン、ジュンスがマネジメントを委託するするC−JeSエンターテインメントと契約を結んだ2010年3月の時点では、エイベックスは、ジェジュン、ユチョン、ジュンスと係争中であるSMの意向を半ば「無視」、もしくは「軽視」し、3人のユニットが日本で活動することを後押しした。SMエンターテインメントは、ジェジュン、ユチョン、ジュンスの3人はまだ自分たちの専属アーティストだと主張しているわけで、エイベックスが別のマネジメント会社と契約することは、「SMとの関係にヒビを入れる」と取られてもおかしくない事態でもあった。

 しかし、エイベックスはペク・チャンジュ氏の「経歴」を主な理由にして、JYJの活動休止を一方的に宣言する。

 そもそも、SMとの専属契約に不都合を感じて韓国で提訴にまで踏み切った3人だったが、皮肉なことに、その自分たちの活動をSMの意向を無視してまで後押ししてくれたエイベックスとの専属契約が、今度は日本での活動の妨げとなってしまうことになる。エイベックスは、「JUNSU/JEJUNG/YUCHUN」の活動を「当分の間休止」しただけで、契約を解除したわけではないとしたからだ。エイベックスの主張によれば、ジェジュン、ユチョン、ジュンスの3人はエイベックスとの専属契約がまだ残っており、エイベックスを通さずに日本で活動することができない。しかし、当のエイベックスは、「当分の間休止」すると言い、本人たちがやりたくても、活動ができない状況に置かれてしまっのだ。普通に考えれば、問題があるならば、契約を解除すればよいと思うのだが、そこは「大人の事情」があるからか、泥沼化した裁判と、水面下で行われている争いは、捩れに捩れて今も続いている。

 これをどう捉えればいいのか。弁護士、篠原一廣氏は、こう説明する。

 「C-JeS側の主張は、それはそれで正当な主張だと思います。専属契約ですから、エイベックス側が何もしないと一切収入が入ってこない、日本での活動ができない、ということになってしまう。ですから、それなりにエイベックス側が義務を負うという風に解釈されると思うんですよ。つまり、機会があればイベントなどを企画したり、需要があれば、活動を行う義務というのは当然ある。それをやっていないということなので、エイベックス側は、相当な理由がないと、なかなか義務を果たしたとは言えないでしょう」

 では、「コンプライアンスの問題」は、マネジメントを中止する理由になるのだろうか。

 「コンプライアンス上問題があるなら、契約を解除するという話になるはずです。それを、契約は続けるが、仕事は与えない、ということが認められるかどうかは微妙です。つまり解除事由が発生しているのに、それを解除しないで放置しておくことは、あまり通常では無い話です」(篠原氏)」

 C−JeS側の準備書面は、こう結論付けている。

 「被告は、韓国においてJYJの訴訟を行っているS.M.との関係を修復するため、原告との専属契約が現在も有効に存続しているとの立場を固持して、『いかなる手段を講じても』、JYJの日本でのアーティスト活動を阻止する必要があったのである。」

 次回裁判は12月6日の予定である。

 ■「東方神起」は誰のものなのか? 商標権問題

 JYJの一人ジェジュンが「ぼくはまだ東方神起の一員だ」と発言したことがある。JYJを擁護する一部のファンが「そうだ、まだ東方神起だ」と援護射撃し、逆にチャンミンやユンホのファンたちの一部も、「2人だけが東方神起だ」と、主にネット上でやり合いになった。その中で登場したのが、東方神起の商標権問題だった。商標権とは、ある商品の名前やブランド名を使ってもいいという権利のことで、法的にも認められる。普通に考えれば、「東方神起」の商標権は、それをつくり出し、プロデュースするSMエンターテインメントが持っているはずだ。しかし、JYJを擁護する一部のファンが、「SMは商標権を持っていない」と言い出し、「持っている」「いや持っている」と、情報が錯綜し始めたのである。

 実際のところ、どうなっているのだろうか。韓国特許庁のデータベースによれば、2011年11月現在で確認できる「東方神起」の商標は中国語の簡体字のみで、SMエンターテインメントが持っていた。そもそも、「東方神起」という存在は一つしかないが、「東方神起」というブランドは、韓国語を始めとして、日本語、中国語、アルファベットと、複数の形で存在する。そのうち、登録されていたのは中国語の簡体字だけだったのだ。韓国語の「トンバンシンギ」などは、SMエンターテインメントの代理人が申請はしているが、まだ登録されていない。

 韓国紙「民衆の声」紙によれば、SMは東方神起のデビュー当初に商標の登録を出願したが、「本願商標は、SMエンターテイメント所属のアカペラダンス歌手のグループで、ユンホ、ジェジュン、ユチョン、ジュンス、チャンミンで構成された著名な他人の氏名(名称)を含む商標であり、商標法第7条第1項第6号に該当し、商標登録を受けることができません」(特許庁)と登録を拒否されている。つまり本人たちの同意書がなかったために登録を拒絶されたのだ。SMは同意書を用意して再度申請するのだが、「これらが未成年者であるため、特許法第3条、民法第5条、民法第909条により、未成年者の法律行為は、親権者の富と模擬同意書が必要ですので添付してください」(特許庁)、つまり、5人が未成年で親の同意がないために登録を拒否されてしまったという。

 また、同じく韓国紙「スポーツソウル」によれば、SMは分裂騒動の最中の2009年8月5日にも商標を出願した。しかし、「NEWSEN」紙によれば、2009年末にSM自ら出願を取り下げている。

 初期に申請が却下された原因は、五人のメンバーの親の同意書がないことだった。しかし、この時点で、既にメンバー5人は成人していて、親の同意書は必要ないはずだ。ではなぜ登録できなかったのか。前出の「スポーツソウル」紙にはこう書かれている。

「ファンソンピル弁理士は、(中略)"商標法は、東方神起をSMのものではなく、メンバー5人とみている。"東方神起"という名前は、グループを構成する5人の著名な芸名であって、SMの著名な芸名ではないと判断するため"と説明した。」

 つまり、韓国の商標法によれば、2009年8月5日の時点では、「東方神起」の商標を登録するのに、5人の同意が必要だったことになる。そしておそらく、この時点で、少なくともSMを提訴していたジェジュン、ジュンス、ユチョンの同意書が用意できなかった可能性が高いことになる。当然、ユンホやチャンミンが同意書の提出を拒否した可能性もあるが、今のところそれは確認できない。

 いずれにしても、韓国ではその後、商標の申請が出されておらず、JYJの3人とSMエンターテインメントの裁判が決着を見るまでは、保留されることになるだろう。裁判が決着し、JYJの三人が正式にSMエンターテインメントを出ることになれば、名実ともにユンホとチャンミンが「東方神起」ということになり、SMは商標の申請がしやすくなる。もちろん、裁判で3人の契約がまだ有効だという判決が出る可能性もまったくゼロではないのだが。

 ちなみに、日本での商標権も、韓国と同様に、中国語の簡体字が登録されているほか、繁体字も登録されている。権利を持つのは、SMエンターテインメント・ジャパンだ。しかし、肝心の「東方神起」や「TOHOSHINKI」に関しては、2011年7月17日に申請が出されているものの、まだ登録されてない。

 それにしてもなぜ、日韓両国において、中国語だけが登録されているのだろうか。これについては、商標権の法的な意味を確認する必要がある。つまり、商標権とは、あくまでも、その国の内部で登録、使用できるものなのだ。また、その国の内部で、既に誰もが知っている著名な名称を登録するには、様々なハードルがある。日本の場合は、当事者しかその商標を登録することはできないようだ。弁護士の篠原一廣氏は次のように説明する。

 「日本では、『ソニー』、『パナソニック』といった著名な名称での商標登録を無関係の者がすることはできない旨が規定されています(商標法4条1項15号)。このため、たとえ所属事務所であっても、5人組の代名詞として著名になっている『東方神起』という名称では登録できないということなのだと思います」

 一方で、誰も知らないような商標の場合は、案外スムーズに登録ができる場合があるようだ。韓国国内、それに日本国内では、「東方神起」という名称は誰もが知っているが、中国語の「東方神起」はほとんど知られていない。そのため、既に著名になっている母国語やアルファベットでの登録はできなかったが、中国語はできたのだ。篠原氏は言う。

「資料の内容によると、「東方神起」という通常の名称は、5人組に関する著名な表示となっているため、所属事務所であるSMであっても登録は認めないという判断のようです。しかしながら、中国語での表記については、韓国国内でも流通していないため、著名性が否定され、登録が認められたのだと思います」

 いずれにせよ、2011年11月現在では、中国語を除けば、東方神起の商標は誰も持っていない。これはまさに、分裂騒動で揺れる「東方神起」という存在を象徴しているように思える。しかし、おそらく、SMとジェジュン、ユチョン、ジュンスとの裁判において「3人とSMとの専属契約は無効」とする判決が出て、名実ともに「東方神起は2人」となったとき、二人の同意書を得た上で、SMエンターテインメントが「東方神起」の商標権を獲得する可能性は充分にあるだろう。篠原氏は、「憶測の域を出るものではないが」と断った上で、こう話した。

 「『東方神起』という名称は、現状では5人組を代表するものと認識されているため、登録ができないと思いますが、今後、裁判の決着が着き、2名での『東方神起』の活動が本格化した場合、2人組の承諾があれば、商標登録できる余地も出てくると思います」

 「東方神起」の商標を巡っては、さながら現代における「王位継承権」争奪戦の様相を呈してさえいる。それは、日韓だけでなく、アジアの芸能界の「王」だった五人の「東方神起」が分裂したことによる、必然的な争いだったとは言えるかもしれないが、ただただ激しいという他はない。

 そして、改めて本稿(上)の最初に戻りたい。

 「平成23年9月22日、韓国におけるJYJの代理人である申智慧(シン・ジヘ)弁護士から、原告代理人らに対して、「S.M.から代理人に対して、日本で行われている裁判を含めて和解したいとの申し入れがあったが、S.M.がこのような申し入れをしてきた真意が分かりにくい。」との問い合わせがあった。これは、韓国において、所属事務所とアーティストとの専属契約の効力に関する訴訟について、近時、長期にわたる専属契約は無効であるとの最高裁の判断が出されたことから、S.M.としては、S.M.とJYJとの訴訟(控訴審)においても、JYJに有利な判決が下される可能性が高まってきたことから、韓国と日本での裁判を和解という形で一挙に解決したいと考えたのではないかと推認される。そして、S.M.が申代理人に対して、上記申し入れをしたということは、被告も、S.M.の指示に従うことを前提としており、被告が原告による日本でのJYJマネジメントを妨害している理由がS.M.の意向を慮ってのことであることが優に推認できる」

 日本のC-JeS側弁護士は「和解よりも判決が欲しい」と話した。韓国での裁判の調停に、SM側は調停案を提出している。JYJ側が「調停案」を提出したとの情報は伝わっていない。

 争いが始まって、既に2年が経過した。もうそろそろ、双方に「落とし所」が見つかっても良さそうに思えるのだが。

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筆者

小野登志郎

小野登志郎(おの・としろう) ノンフィクションライター

1976年、福岡県生まれ。早大中退後、フリーのライターとして執筆活動を始める。在日中国人や暴力団、犯罪などについて取材し、月刊誌や週刊誌に記事を掲載している。著書に『龍宮城 歌舞伎町マフィア最新ファイル』『ドリーム・キャンパス』『アウトロー刑事の人に言えないテクニック』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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