メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

日経vs.朝日 電子版対決 使ってみると

 朝日新聞の『Journalism』12月号より、日経vs.朝日のデジタル版対決。フリーランスジャーナリストの本田雅一氏、西田宗千佳氏が両社のデジタル版を徹底的に使い、比較した。その結論は。

 このテーマに関連したニコニコ生放送の番組が12月13日夜にあります。詳しくはこちら(http://live.nicovideo.jp/watch/lv73288194)で。

..........................................................

本田雅一(ほんだ・まさかず)

フリーランスジャーナリスト。1967年三重県生まれ。製品、サービスの評価から経営者への取材記事まで経営、マーケティング、技術の三要素を織り交ぜながら取材執筆。近年の取材テーマはハード、ソフト、ネットサービスの融合。近著に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』など。

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。近著に『形なきモノを売る時代』(エンターブレイン)、『世界で勝てるデジタル家電』(朝日新聞出版)など。東京理科大学理工学部数学科中退。IT・家電を中心とした産業分野をフィールドとして、取材記事を執筆

聞き手・まとめ 伊丹和弘

朝日新聞社ジャーナリスト学校主任研究員

..........................................................

新聞にこだわった朝日新聞デジタル ネットを重視した日経電子版

導線と会員登録

本田 朝日はニュースサイトが無料で誰にでも読めるアサヒ・コムと、有料で会員登録が必要な朝日新聞デジタルに分かれており、デザインや構成、使い勝手が全く違います。一方、日経は会員登録を前提とした日経電子版というサイトしかなく、全サービスが利用できる有料会員と、制限された無料会員があり、非会員のゲストユーザーも一部のコンテンツが利用できます。

西田 日経の導線は非会員から会員へと誘導するとてもシンプルなものです。「会員限定記事」や「サービス」を使うには日経IDというアカウントを作成する必要があり、「限定記事」にあるリンクをクリックして行います(写真1)。

 朝日新聞デジタルの主な導線はアサヒ・コムからで、広告などからも誘導していますが、基本は「記事」が入り口です。アサヒ・コムの記事は紙面より短い短縮版で、記事の最後に「続きは朝日新聞デジタルでご覧いただけます」との文言がある(写真2)。ここから朝日新聞デジタルへと読者を導くわけです。

拡大写真1 日経の導線は「限定記事」から

拡大写真2 朝日新聞デジタルへの導線はアサヒ・コムから

本田 問題は朝日新聞デジタルがどのようなサービスであるか、事前に体感する手がかりがとても限られていることです。朝日新聞デジタルのトップ画面から記事の見出しをクリックしても、アサヒ・コムから「続き」を読もうとしても、購入手続きをしないと中身が見られない。利用者は、有料サービスに加入すると、どのような記事を見ることができるのか、加入前には分からないのです。有料版の使いやすさ、便利さを読者に体験させて、無料版との差異をアピールし、有料購読に誘うのが普通だと思うのですが。

 一方、日経は会員登録前のゲストユーザーから有料会員まで、すべての読者が同じデザイン、ユーザーインターフェースで利用します。「これでは有料版との違いを表せないのでは?」と思うかもしれませんが、会員限定記事(月20本の制限あり)を読むには無料会員登録を済ませる必要があり、さらに全記事を読む、専用アプリケーションを使う、クリッピングなどのサービス、過去記事検索を使うには有料版に移行する必要があります。

西田 日経の会員登録は有料会員も無料会員も登録方法そのものに違いはなく、窓口が一本化されていて、非常に分かりやすい。無料から有料への切り替えはクレジットカードの登録だけでできます。申し込んだ月には電子版が無料で購読でき、翌月からは自動的に課金がスタートします。これは朝日も同じなのですが、支払いがクレジットカードのみなのが残念です。銀行引き落としなど多様な方法を検討してほしい。

本田 朝日の購入手続きは非常に煩雑で、分かりにくい。普通なら会員登録をしてから、決済登録をするものですが、その順序が逆で、いきなり決済登録しなければなりません。さらにここで出てくる「Jpass ID」が分かりにくさを助長しています。唐突に現れたJpassは利用者からは見知らぬ第三者にしか見えず、これが何かを理解してからでなければ、安心して手続きできない。ここで購入を止めてしまった人が何人もいるのではないでしょうか? Jpassは朝日新聞社が運営する決済・認証サービスで、雑誌記事などを販売するAstandなどでも使える決済サービスですが、先に登録させる意味が分からない。普通に会員登録の手続きを踏んで、決済登録もしたら、「決済サービスJpassに登録されました。Astandなどでも使えます」でいいでしょう。もっと登録・決済手続きを簡素化するべきです。

西田 同意見です。現在はキャンペーン中で、初回申し込み時は2カ月間無料で利用できますが、いきなり決済手続きをさせる今の方法が申し込みに二の足を踏ませている恐れがあります。無料期間終了時は、メールで有料サービスへの移行確認が行われますが、解約しなければ有料に自動移行します。この点を不安に思う人もいるでしょう。

メディア対応

西田 朝日新聞デジタルは、大きく分けてウェブ版と、iPhone版、iPad版、Android版(以下後者3つをアプリ版と総称)の4つに分かれています。ウェブ版・アプリ版ともにレイアウトはかなり余裕がある(写真3、4)。アサヒ・コムでは広告が目立つ一方、朝日新聞デジタルは広告がゼロではないけど控えめです。アサヒ・コムがいかにもウェブメディアらしい、見出しだけを並べるスタイル(写真5)であるのに対し、朝日新聞デジタルは見出し+概要。ニュースの重要度が面積で分かる、紙の新聞に近いレイアウトにしています。見やすさという点では後者がプラスに思えるが、短時間で「どんなニュースがあるか」という情報だけを得るのであれば、1画面内での情報量が多い分だけ、前者の方が効率はいい。ウェブの流儀に慣れた人だと、朝日新聞デジタルは「スカスカ」なレイアウトにも思えてしまう。

拡大写真3 朝日新聞デジタルのウェブ版

拡大写真4 朝日新聞デジタルのアプリ版

拡大写真5 ウェブメディアらしいアサヒ・コムのスタイル

本田 朝日のアプリ版は、ほとんどの記事がマス目に切られた枠の中に配置され、新聞の雰囲気を演出することには成功しています。しかし、レイアウトは正方形、長方形の組み合わせで単調であるため、なかなか紙面のように自由な表現とはいかないのが現実です。表現できる面積は小さく、しかもパラパラとめくりながら次々に俯瞰していく場合に、全体像の把握はやりやすいとは言えない。

 コンピューターの画面は、視覚的に俯瞰するのにはあまり向いていません。紙面的レイアウトの意図は充分に理解できますが、それによって数多くの記事が見えにくくなり、かえってニューストレンド全体を見渡しにくくなっています。

西田 朝日新聞デジタルはサービスにログインしないと読めない作りなので、ウェブ版ではログイン作業を強いられる。一日一度ログインすれば、その日は情報を保存しておいてくれるが、翌日はまたログインしないといけない。これが意外と面倒なんです。他方、アプリ版の良さは、ログイン情報を何度も入力する必要がない点にあります。

 ウェブ版同様、アプリ版もネットにつながっていないと使えません。アプリ版は、スタート当初動作が遅く、各記事やページの切り替え動作にストレスを感じたが、最近はソフトの改善により、かなり改善されました。動作のなめらかさや安定度、表示の美しさではiPhone/iPad版が上。でも、地下鉄などの通信環境が不安定な場所で朝刊を読むならば、自動的に新刊を夜中に取り込めるAndroid版の方が向いています。

西田 日経電子版は、大きく分けてパソコン用ウェブ版(写真6)、携帯電話(フィーチャーフォン)版、iPhone版(写真7)、Android版があります。この他、シャープの電子書籍ストア「GガラパゴスALAPAGOS」向けがあり、こちらは、Androidと専用端末(すでに販売は終了)で利用できます。またスマートフォン向けには、別途ウェブブラウザーからアクセスする「モバイルウェブ版」(写真8)もあり、これら多様な端末によるアクセス手段の準備も、日経電子版の特徴といえます。

拡大写真6 日経のパソコン用ウェブ版のWeb刊

拡大写真7 日経のiPhone版

拡大写真8 日経のモバイルウェブ版

 日経電子版は会員登録すればより多くの記事が読める。この際にも、ID入力を求められる頻度が少なく、快適です。日経電子版の場合、ID情報は30日に一度しか求められないので、イライラすることは少ない。アプリ版については、もちろん朝日新聞デジタルと同様、入力は一度で済みます。アプリ版はよくまとまっていますが、こと動作の素早さ・使い方のシンプルさでいえば、モバイルウェブ版の方を高く評価します。アプリ版と比べると、通信ができる場所でなければ、すでに取得済みの一部記事しか読めない、という欠点はありますが、見やすく、端末を選ばない点など長所も多い。

本田 日経は、最初から新聞的レイアウトを捨て、ウェブブラウザーやスマートフォンそれぞれでの見やすさを重視した作りになっています。タイトルの位置やサイズなどで記事の重み付けがわかるように配置されており、ウェブブラウザー上でのレイアウトは特に見やすい。読むための専用アプリケーションとしてスマートフォン版、携帯電話版が用意されていますが、iPadをはじめとするタブレット版はありません。

紙面ラインアップ

本田 日経にはWeb刊、朝日には24時刊という常に更新され続けるインターネットならではの紙面と、朝刊、夕刊(朝日はデジタル版向けのYou刊)といった、紙の新聞と同一内容を配信した紙面を用意している点はよく似ています。しかし、よく読んでみると、記事の出し方が全く違う。

 日経のWeb刊は速報であると同時に、ネット上のニュースポータルのように、多様な情報を集積したネット情報の入り口といった位置付けになっています。専門誌のコラムがリンクされるなど、日経グループ全体のコンテンツの〝今〟を見せるのがWeb刊です。

 一方、朝日の24時刊は基本的にニュース速報専用面で、刻々と変わる時間に応じて集まるニュースをリアルタイムに再編しています。こうしたニュース速報はアサヒ・コムの役目でしたが、朝日新聞デジタルが創刊されてからはアサヒ・コムには短いダイジェストしか掲載されなくなっており、この24時刊が以前のアサヒ・コムの役割を代替しているわけです。最新ニュースだけを俯瞰したいならば、日経のWeb刊よりもこちらの方が見やすいという人もいるでしょう。

 You刊はコラムを中心とした「雑誌」的な編集です。様々な分野の意見が並べられ、そこに様々な趣味、文化などの情報が盛り込まれる。ちょっとした世の中の話題を拾って、自分の知識とするなり、知り合いとの話題にするなり、使い道は自由だが、ひとつにまとめられているため読みやすい。今後さらに洗練度は上げていく必要はあると思うが、コンセプトに関しては高く評価したい。 

西田 朝日の速報記事は朝日新聞デジタルにすべて掲載されている。一方、コラムは、朝日新聞デジタルに集約されているかといえば、アサヒ・コムにしかないものもあり、非常に分かりづらい。

 You刊は私も高く評価したい。「WEBRONZA」「GLOBE」など本紙以外のコラムも読める。紙面上では分散し、見逃されがちなコラムがまとまっていることで、好きな時にじっくり読める。これと別に、朝刊で連続掲載された特集をまとめて読める「企画・連載ライブラリー」の存在はうれしい。こちらも、You刊と同じく「読み応え」を求める層向けです。

 ただし、紙版にはあるマンガや連載小説がデジタル版では読めません。新聞のデジタル版として考えると、ラテ欄や全面広告を読みたい人もいるでしょう。そういう意味ではかなり物足りない。

 日経新聞電子版の主軸であるWeb版には日経グループが発行する各種専門誌・ウェブなどで公開された記事も集約されていて、一般的な新聞紙面より「濃い」専門記事も見つかる。こまめに電子版オリジナルのコラムも掲載されており、「独自コンテンツの豊富さ」では朝日新聞デジタルよりも上だと感じます。

独自機能とその評価

西田 日経電子版の最大の付加価値は「My日経」です(写真9)。

拡大写真9 読者好みの記事を薦めるMy日経

購読時に選んだ自分の職種や、それまでに読んだ記事の履歴から、興味があるであろう記事に優先度を自動設定、記事を一覧表示します。確度も内容もレベルが高く、「自動収集系」の機能としてはかなり使えるものだと感じます。また、日経電子版上での行動はすべて履歴が残されており、「最近読んだ記事」「多くの人が読んでいて、オススメするキーワードの一覧」などを簡単に呼び出せます。

 朝日新聞デジタルには、「スクラップブック」「記事検索」「MYキーワード」という機能があります。スクラップブック(写真10)は、メモしておきたい記事をサービス内の個人領域に残しておけるものですが、残しておけるのは文字だけ。朝日新聞デジタル内にメモするくらいなら、別のサービスへコピーした方が使いやすい。

拡大写真10 朝日新聞デジタルのスクラップブック

MYキーワード(写真11)はキーワードを登録し、それに適合する記事を自動抽出するものです。それなりに便利ですが、単純に一覧になるだけなので決して見やすくない。My日経に比べると機能としてはかなり不満が残ります。

本田 MYキーワードに似た機能に「MYセレクト」があります。「教育」「サッカー日本代表」など100を超えるジャンルがあり、選択すると、それぞれのニュースをまとめて紙面を自動構成する機能です。とばし読みをしながら必要なところだけをパッ、パッとページをめくりながら見るのに近い体験でしょう。朝日は紙の新聞を読む際の様々な行為を、電子化した紙面ではどうすれば実現できるか、といった視点で作っているようです。しかし、デジタル化の利点はそこなのでしょうか。

拡大写真11 朝日新聞デジタルのMYキーワード

 日経には、利用者に付随する情報、たとえば職業や過去に好んで読んだ記事の履歴などから読者に対して、読むべき記事をオファーするMy日経がある。決して「読ませる」わけではなく、見つけやすいように提示する。「履歴」によって、それぞれの読者に個別にソムリエ的なサービスを行うという考えは、決して新しいものではありませんが、実際に使っていると、「自分のことを分かってくれている」と感じさせることも多い。

 このほか、細かな点ですが、速報が入った際にメールで知らせる機能が日経にはあるが、朝日にはない。新たな情報をいち早く気づかせるという点で、この差は小さくありません。

 日経のこれらの機能は、そのほとんどが読者に対し「記事への気づき」を与えることを目的にしています。これは紙面構成における「重み付け」や「見せ方」と同じぐらい重要です。各新聞社の違いとは何か、個性とは何かを、従来の整理部の仕事に求めるのであれば、電子版独自機能の部分にこそ、それぞれの新聞の魂が宿るのだと思います。

西田 朝日のiPad版には「1面タイムマシン」(写真12)という、時間に応じて変わっていく1面の構成を、時間を巻き戻しつつ確認できる機能があります。確かに面白いのですが、何度か見れば十分。付加価値として高いとはいえません。

拡大写真12 朝日新聞デジタルの1面タイムマシン

 日経のウェブ版では朝刊・夕刊の紙面が見られます(写真13)。この機能は紙面から記事を読むことが目的ではなく、紙面での扱い、つまり、ニュースの重要度を確認するための機能、という位置づけです。ただし、動作が重く、いちいち呼び出さねばならないため、実用度はいまひとつ。むしろiPadなどのタブレット向けに、紙面そのままのイメージを提供する機能があった方がいい。

価格と総合評価

西田 朝日新聞デジタルは、デジタル版のみだと月額3800円。紙とデジタルの両方を購読する「ダブルコース」で、新聞(宅配)料金+1000円です。日経電子版は、電子版のみの「電子版月ぎめプラン」が4000円。紙と電子版の両方を購読すると新聞(宅配)料金+1000円です。価格が同水準なのは、朝日が日経を見て値付けしているからです。要はどちらも紙ありきの価格であり、「紙はいらない」という人には法外に高い。

本田 是が非でも紙の新聞を同時契約してほしいというメッセージでしょう。新聞社の収入源は宅配を前提とした購読料と広告料金の2本立て。電子版だけでいい、となってしまうと、配送・配達といった物理的な流通システムのみならず、広告ビジネスの枠組みも変えて考えなければならないからです。

 市場環境の急変を考慮すれば、これでも頑張っている方なのかもしれません。しかし、読者の好みが変わってきたことは、当の新聞社自身が把握していることではないでしょうか。

拡大写真13 日経では紙面イメージが見られる

 完全デジタル化に躊躇しているようでは、次のステップにはなかなか踏み出せません。サービスや対応アプリケーションの使い勝手も重要ですが、デジタル化に向けて、ビジネスモデルの再構築を考えることも、同じぐらい重要になってきます。少なくとも電子版のみを購読することが馬鹿らしく感じるような値付けはすべきではありません。

西田 全体的に見ると独自記事を含め、紙にない価値を作ろうという試みは見えますが、これまでの「無料のウェブ版」との違いが、実際に細かな独自記事を読み始めてみないと分かりづらい、というのは大きな問題でしょう。

 日経は「紙より楽に」というイメージでサービス開発が行われているようですが、朝日新聞は「ウェブよりじっくりと」というポリシーだと感じます。しかし、「じっくり」がデジタル版に合っているのか、という疑念があり、それは「快適な使い勝手」の上にしか存在しえないのでは、という印象も受けます。

 現状では、ITの感覚に合わせた日経電子版の方が読みやすく、朝日新聞デジタルはデジタル版として不徹底ではないか、と感じます。

本田 情報過多の現代に、読者個人に合わせて「読んでほしいニュース」をお薦めするソムリエ機能が、今後はさらに重要になってきます。より良い情報を選んで届けてくれる、ニュースの取捨選択も、この新聞社にならまかせておける、そんなサービスになれるかどうか。

 情報過多の時代に求められるのは、読者が情報の取捨選択を簡単に行える、インテリジェンスな機能だと思います。今は一歩、日経がリードしていますが、シンプルだが圧倒的に機能的な紙の新聞を越えているかと言えば、まだ“YES”とは言い難い。まだまだこれからが進化の本番と考え、足元から見つめ直すべきでしょう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。