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李国林と怒羅権の実像とは

小野登志朗

小野登志郎 ノンフィクションライター

我が国の多くの国民が関心を示していることではさらさら無いだろうが、この国には「怒羅権」なるグループが存在していると言われている。在日の中国人が何かの犯罪を行った場合の最近の傾向として、「あれは、怒羅権の仕業ではないか」と言われることもある。怒羅権のことについての書籍を出版していることもあり、その都度、わたしのところに新聞やテレビの記者から連絡が入るのだが、正直、いつも困惑してしまう。何よりもまず、聞いてくる人間のほとんどが怒羅権のことを何も知らないし、また、怒羅権を取り締まる警視庁組織犯罪対策二課や各道府県の捜査員の間でも、グループの実態について見解が割れることもあるのだ。さらには、当事者であるはずの怒羅権の構成員を名乗る人間たちでさえ、決まった括りがあるのかないのか、定かではない集団、組織なのだから。

 54時間の逃走劇の末に逮捕された李国林容疑者についても、「怒羅権関係者ではないか」との情報が飛び交った。わたしが聞いた複数の怒羅権関係者は、「いや、彼は怒羅権ではない」と答え、また、捜査員の一人も「李国林は、ただの不良中国人」という答えが返ってきた。しかし、いくつかの報道機関は李国林容疑者を「怒羅権関係者か」と書いた。李がなにか特別な伝手を持っていたのかどうか、いろいろと確かめたのだが、彼が逮捕前に行った犯罪の一つに、中国残留孤児の三世が関わったことがあった、ことくらいしか分からなかった。なかなか共有されることはない感覚だが、怒羅権に関する出来事に際して覚える、このある種の浮遊感をほんの少しでも払拭するために、わたしなりの怒羅権についての定義をここで開陳してみたい。

 その前に、警察庁の怒羅権に対する定義だが、どうやら次のようのものであるようだ。怒羅権とは、1980年代後半に都内や関東近県で、帰国した中国残留孤児二世、三世によって構成された暴走族のことを差し、それとは別に、「チャイニーズ・ドラゴン」という新語を編み出し、これは「怒羅権の出身者や、その関係者」を差すということのようだ。チャイニーズ・ドラゴンは都内やその周辺地域に七グループ、千人の構成員が存在し、彼らは、麻薬、窃盗、強盗、恐喝など悪事に手を染めていると言う。

 怒羅権は、1990年代から2000年代初頭にかけて、暴走族の域を優に越えて暴れ回っていた。ある怒羅権関係者によれば、「日本のヤクザにだけはイモ引くな、と先輩から言われた」として、実際にそのことを実践してきたという。しかし、今現在の日本には暴走族としての怒羅権は存在していないと言ってよく、その出身者や関係者は怒羅権を名乗ることは少なくなった。では、彼らが今いったい何を名乗っているかと言えば、別に何を名乗っているわけでもないのである。時には怒羅権を名乗ることもあるが、「あれは、昔のことだから」と言ったりして、「でも今は違う。マフィアだ」となったりもする。あるいは暴力団に所属している者もいる。警察庁が、上から無理やり定義付けした言うところの「チャイニーズ・ドラゴン」を名乗る人間は、実際には存在しない。

 中国人のイメージが強い怒羅権だが、中心となってきたのは中国残留孤児の子孫たちであり、あくまでも日本の国籍を持つ人間たちであって、中には中国とは縁もゆかりも無い日本人も多く所属していたりする。現在中国の首都北京に滞在している警視庁が指定するところの「怒羅権最大勢力の首領」は、かの地で怒っていた。

 「オレは日本人だよ。それなのに日本の警察は、オレの事を中国人マフィアと呼ぶ。おかしくないか」

 ちなみにこの首領は、

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