辰濃哲郎
2012年02月03日
事件や政局の節目で、だれが何を思い、何をしたのかの細かいデータを丹念に追って、事実を記録的に報じる記事のスタイルだ。電話のやり取りから会議での発言などを、複数の当事者の記憶やメモなどで裏取りしているから、限りなく事実に近い客観報道として読者に提供できる。記者の先入観や批判、予断などが入り込む隙がない。
私が朝日新聞社の社会部記者だった89年、リクルート事件で当時の竹下登首相が退陣に追い込まれる政局を追った政治部による「検証・リクルート政局第5部」が2面に連載された。
政治部の力技に、衝撃を受けた。竹下首相を中心に福田赳夫、鈴木善幸の両元首相や、政界の大物らが交わす会話や電話の内容が淡々とつづられている。政権を批判する言葉も、解釈もまったくない。だが、どのように次期総裁を決めていったのかが、手に取るようにわかった。
当事者の心の内を、いつ、どこで、何をしたのか、という具体的な動きで表現していくのがドキュメントの基本的な手法だ。動きを丹念に追えば、テレビでは放映できない映像を、読者の脳裏に結ぶことができるはずだ。テレビに押される報道の現場で、紙媒体が生き残るための手法の一つだと私は信じている。
後に社会部のキャップやデスクを経験した私は、何度もこのドキュメントを手がけた。だが、この手法には欠点もある。関係者の協力が得られなければ成立しない。取材対象者から一通りの話を聞いただけではドキュメントは書けないから、何度も何度も通って、微に入り細に渡って当時の様子を聞き出す。かつ現場を訪ねて再現する。時間がかかるうえ、手間も通常の2倍も3倍もかかる。
朝日新聞の2面に連載中の「プロメテウスの罠」は久し振りのヒットだ。「プロメテウス」というのは人類に火を与えたギリシャ神話の神族ということらしい。「プロメテウスを知っているか」という、いかにも上から目線の朝日に嫌味を感じつつも、お家芸である「ドキュメント」の復活は喜ばしい。毎朝、新聞を読むとき、まずは2面から読み始める楽しみができた。
だが、褒めるだけでは面白くない。
第1部の「防護服の男」は、
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