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影が薄すぎるプロ野球のコミッショナー

大坪正則(スポーツ経営学)

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 米国メジャーリーグ(MLB)のバド・セリグコミッショナーの任期が2014年末まで延長され、年俸も2200万ドル(約19億円)に引き上げられた。日本のプロ野球(NPB)では想像もつかない金額だ。日米のコミッショナーの年俸格差は選手間のそれどころの話ではない。

 私は、3月15日から25日までロンドンに滞在した。その間にプレミアリーグの経営者と意見交換をした。英国にいてMLBのコミッショナーについて議論をするのは少し変な感じだが、リーグ経営の根幹に触れることだけに、皆がリーグトップのリーダーシップに関する英米比較を真面目に語ってくれた。

 ご承知のように、イングランドはサッカー発祥の地。同時に、「アマチュアリズム」を生んだ土地でもある。1863年に世界に先駆けてサッカー協会が設立され、1888年にはプロリーグが発足した。その時、英国のプロ組織はアマチュア団体である協会の傘下に留まることを決心する。これで、プロ組織でありながら「金儲け」の匂いが大きく消えた。米国との違いがここから始まる。

 金儲けに徹することのできないクラブは当然貧乏だ。テレビが家庭に普及してもテレビ局が公共放送だったので、権利料収入に依存できない期間が1990年頃まで続いた。しかも、リーグに昇格・降格の制度があるので、順位に左右されない地元住民の熱烈な支援が唯一の助け船となった。

 加えて、英国を含む欧州全体が有史以来隣接する国や街と戦争をして、お互いが略奪を重ねてきたので、各地域及びクラブに独立を好む傾向が極めて強い。

 かかる環境だから、クラブ創立以来、クラブと地域及びその住民との結び付きが強固に保たれてきた。中央集権的コミッショナー制度は歴史的、文化的な面からも英国を含む欧州の好みではないのだ(だから、スポーツ経営を考えるためには、欧州と米国の歴史・文化・芸術を学習する必要がある)。

 それでは、プレミアリーグ全体の統治はどうなっているのだろうか。もちろん、全体を管理する事務局は存在する。ただし、米国のコミッショナー事務局と異なり、プレミアの事務局は重要な懸案事項や突然起こった問題を独善的に収束または解決する権限を有していない。

 リーグの重要案件は20のクラブの代表が決めることになっている。しかも、4分の3(即ち15名)以上が賛成しないと同意事項にならない。独立性の強い20のクラブがそれぞれ地元の歴史と文化を背負っているので、4分の3の賛成取得は非常に難しい。合理性を最優先する癖の付いたア―セナルを運営する米国出身の経営者は、ビジネスよりも歴史や文化を優先するプレミア流のやり方にもどかしさを感じるのを禁じえない様子だった。

 ここまでの記述で読者の皆さんは、NPBの統治の実態が

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