大坪正則(スポーツ経営学)
2012年05月02日
その要因として、(1)サッカーが世界中に普及し、どこの国にもプロリーグが存在すること(2)プロリーグがアマチュア組織の各国協会(FA)、大陸ごとの連盟(例えば、欧州のUEFA)、及び、国際サッカー連盟(FIFA)の管理下にあること(3)リーグ戦の他に国際試合が増えて、クラブは賞金を重要な収入と捉え、有力な選手はクラブの試合と出身国代表の試合の双方に出場しなければならないこと(4)契約が終了した選手はどの国のどのクラブとも自由に契約(移籍)ができること(5)各クラブがユースと女子を育てる義務を負っていること、が挙げられる。
これらを踏まえ、プロリーグを中心にして、サッカーの組織構造を欧州を例にすると以下のようになる。
【クラブ代表――組織――国代表】
クラブワールドカップ――FIFA――ワールドカップ
チャンピオンズリーグ――UEFA――欧州選手権
FAカップ――FA――国際親善試合
リーグ戦――プロリーグ―クラブ(ユース、女子)→国代表にリリース
プロリーグを保有する全ての国がこの構造と同じまたは類似の形態を取るので、あたかも各国がフランチャイズ化し、同時に鎖国化した状態になった。現に、2010年、イングランドのプレミアリーグが公式戦を1試合増やして海外10カ国での開催を試みた時、10カ国及びFIFAとUEFAが即座に反対を表明したためにプレミアの提案は頓挫した。このことは、各国のリーグ及びクラブがリーグ公式戦を海外で行うことができないことを意味する。
国際試合は大陸ごとの連盟とFIFAの主催で行われる。大陸の連盟とFIFAが主催する試合の魅力は賞金である。だから、強豪クラブは国際大会出場を目論むのだ。
例えば、UEFAが主催するチャンピオンズリーグ(CL)に出場するには、国内リーグ戦で上位の戦績をおさめなければならない。CLでは他国のリーグ戦で上位に入ったクラブと対戦して勝ち抜かねばならない。CLで優勝すると、クラブワールドカップに出場し、大陸ごとの優勝クラブと世界一の覇権を争うことになる。従い、各国のリーグ戦で優勝争いを演じるクラブは国内だけではなく、他国の有力クラブとの戦いを視野に入れて戦力を整えざるをえない。
上記の経営環境をクラブの収支項目に反映させるとすると、以下のようになる。
【収入】
チケット、物品販売、テレビ放送権、マーチャンダイジング、スポンサーシップ、賞金
【支出】
選手年俸、選手関連費用、スタジアム使用料(維持管理費)、事務所経費、役員・職員給料、ユース・女子育成経費
UEFAのCL出場を目指すクラブは、賞金獲得と選手年俸のバランスが黒字と赤字の分かれ目になる。しかし、賞金が勝ち負けに左右される変動収入に対して、選手年俸はシーズン開始前に決まるので固定経費である。
しかも、米国のプロリーグのようにサラリーキャップや課徴金制度を設けて選手年俸を管理下に置くこともしていない。国単位で選手年俸に制限を課すと国際大会で勝ち抜くことが難しくなるからだ。
また、UEFAやFIFAが国際レベルで選手年俸を調整すると、EUの諸条約に抵触しかねない。結局、選手年俸の高騰を抑制できない状況が続いている。それはクラブの収支に直接影響を及ぼすことになる。
イングランドのプレミアリーグを例にとると、2010年度、20クラブのうち、税前利益を出したのは4クラブに過ぎない。税前損失の上位4クラブは優勝争い常連の、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アストン・ヴィラである。
また、プレミアリーグ全体の収支を見ても、リーグ収入に占める人件費(選手年俸+役員・職員給料)の割合が68%に達している。米国プロリーグの選手年俸の割合が50%前後であることを勘案すると、プレミアの比率は極めて高い。即ち、選手年俸がクラブ経営を圧迫していることを如実に物語っている。
現在、クラブの経営が苦しいのはイングランドだけではない。日本のJリーグを含め、
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