メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

ネットを通じた「動員」と「憑依」

本田由紀 本田由紀(東大教授)

インターネットやソーシャルメディアは、世界をどの方向に連れてゆくのか。言うまでもなく、ネットやソーシャルメディアは情報流通における一つのツールであり、言わば「空っぽの箱」にすぎない。しかしたとえ「空っぽの箱」であっても、あらゆる箱が箱としての形状や強度などの特性を備えているように、ネットやソーシャルメディアもそれ自体の特性を持ち、その特性が「箱」の中身としてのコンテンツや「箱」の使われ方としての社会状況にも影響を及ぼす。

 ソーシャルメディアという「箱」の特徴として、津田大介は『動員の革命-ソーシャルメディアは何を変えたのか』(中公新書ラクレ)で以下の5点を指摘している。(1)リアルタイム:速報性と電波力、(2)共感・協調:テレパシーのように共有し合う、(3)リンク:具体的行動につながる、(4)オープン:参加も離脱も簡単、(5)プロセス:細切れの情報が興味を喚起する。これらを指摘した上で、津田は前掲書において「アラブの春」や「オキュパイ・ウォールストリート」、震災復興、マイクロペイメントといった主題を取り上げ、人々がソーシャルメディアを活用することにより互いに連帯して独裁や貧困、災害などの諸問題に対して是正の声と行動を起こしてゆく可能性を提示している。

 しかし、津田が指摘する5つの特徴を改めて検討すると、これらの特徴は、上記のような人々の間の水平的な連帯と同等かむしろそれ以上に、特定の強い意図を持つ者が追従者を戦略的に文字通り「動員」しようとする際に、ネットやソーシャルメディアがきわめて効率的な道具となりうることを示唆している。ツイッターやユーチューブ、ニコニコ動画といった広く普及しているソーシャルメディアは、短い字数で語られるインパクトの強い言葉や、刺激的な映像を大量に流通させている。そのような「箱」に馴染みやすい中身とは、複雑な思考や詳細な分析よりは、単純化された主張やスローガン、直接的な興奮をもたらす派手な身振りや声である。すなわち、知性よりも感情や感覚に強く響くタイプのコンテンツは、ソーシャルメディアときわめて親和性が高い。

 このようなコンテンツは、それに触れる者の中にすでにあった感情や感覚をさらに増幅させながら広がってゆく。そして、感情や感覚とは常に正負のベクトルを備えているものである。正のベクトルとは何かを「善いこと」とみなす前向きな感情・感覚であり、負のベクトルとは何かを憎悪し排斥しようとする黒々とした感情・感覚であるが、正反対に見えるこの両者はしばしば表裏一体となっている。何かの「正義」を掲げてそれに反する何かを徹底的に否定する、といったようにである。通常のベクトルであれば数直線上で正負が相殺しあってゼロになるであろうが、感情や感覚の場合、正負のベクトルが相俟って原点から垂直にもうひとつのベクトルが太く立ち上がるという特殊な事象が発生することが珍しくない。さらにまた、そのような負のベクトルと一体化した正のベクトルは、多くの場合、特定の善や正義を体現する具体的な社会層や集団に「憑依」した形をとる。

 「憑依」という言葉は、佐々木俊尚が『「当事者」の時代』(光文社新書)において、戦後日本のジャーナリズムが犠牲者たるマイノリティを代弁し加害者を糾弾するふるまいを ・・・ログインして読む
(残り:約1158文字/本文:約2520文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

本田由紀

本田由紀(ほんだ・ゆき) 本田由紀(東大教授)

東大教授。1964年生まれ。東大大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。日本労働研究機構研究員、東大社会科学研究所助教授などを経て、2008年から東大大学院教育学研究科教授。専門は教育社会学。教育・仕事・家族という三領域間の関係に関する実証研究を主として行う。著書は『若者と仕事』、『多元化する「能力」と日本社会』ほか。

本田由紀の記事

もっと見る