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『孤族の国――ひとりがつながる時代へ』(朝日新聞「孤族の国」取材班、朝日新聞出版)、発売中!

中島美奈(朝日新聞出版書籍編集部)

 団塊世代の高齢化、単身世帯の急増、相次ぐ孤立死。2030年には50~60代男性の4人に一人が一人暮らしになるとの予想もあり、高齢になったら、病気になったら、職を失ったら……そんな不安はいまや人ごとではありません。

 そんな「孤立の罠」が待ち受ける現代日本の断面を、全国53の事例でつづった渾身のルポルタージュ、朝日新聞連載中から反響を呼んだ「孤族(こぞく)の国」待望の単行本化です。

拡大緊急連絡カードを常に持ち歩く79歳の女性。手放すと不安になるという。「銭湯で倒れたら、私が誰だかわからないでしょう?」(撮影=小玉重隆)

 神奈川県逗子市。公園の一角にある駐車場に止められた軽自動車の後部座席から遺体で発見された佐藤正彦さん、享年55。DNA型鑑定で身元は特定できたものの、遺体の引き取り手がなく市が火葬、遺骨を保管します。司法解剖の結果は病死。4人きょうだいの末っ子だった佐藤さんは、なぜ「行旅死亡人」として生涯を閉じなければならなかったのか。取材班がその足取りを追い、浮かび上がってきた生前の姿に胸を突かれます(CASE1)。

 福岡県北九州市門司区。高校時代は屈強なラグビー部員だった39歳の男性は、みぞおちがへこみ、あばら骨が浮き上がった状態で借家で発見されました。生活保護の相談には行っても申請はしなかったことに男性の最後の意地があったのかどうか。〈たすけて〉と叔父に宛てて書かれた未投函の手紙が残されていたといいます。

 「逃げたと思ってた。餓死とは意外やった。できるか? 四十前の男が食えないまま閉じこもって死ぬなんて」

 「すがるところがなくなった。だから、死んだ」

 叔父の言葉は辛辣です。けれど男性と同世代の取材記者は言います。すがってもいい、どこかで一言を絞り出してほしかった、と。(CASE11)

 三重県熊野市。「年金を半分あげる」と言われ、高齢の母と同居を始めた50代男性。数年後ささいなことから対立し、食事を与えず部屋のふすまに釘を打ちつけ閉じ込めます。母は死亡。それでも年金をもらい続けた男性は、詐欺、保護責任者遺棄などの罪に問われました。

 「お母さん、ごめんなさい。愚かな息子です。恥ずかしくて、情けないです。小学校の入学式のときにつないだ手の温かさを覚えています。もしできるのなら、あのころに戻りたいです」

 留置場で考えた謝罪の手紙を弁護人が読む間、男性は号泣したといいます。懲役2年の実刑判決を受けた男性は今、何を思うのでしょうか(CASE18)。

 日本を襲った未曽有の出来事――東日本大震災も「孤族の国」に拍車をかけたように思えます。

 岩手県大槌町。離婚した両親に代わり自分を育ててくれた祖母が行方不明になったままという東京に住む27歳2児のシングルマザーは言います。

 「やったぐなったら、帰ってこぉ」(嫌になったら帰っておいで)、そうやさしく見送ってくれた祖母はもういない。二つ違いの兄も死んだ。帰省中に声をかけてくれた近所の人もみんないなくなった。もう自分には帰る場所などない――(CASE41)。

 あまりに残酷で悲しい現実に胸が締めつけられます。

 一方、地縁や血縁を超えた人とのつながりに託そうというエピソードにわずかな希望を感じます。

 天涯孤独でもNPOの力を借りて「100歳まで生きたい」と願う91歳の女性(CASE28)や、がんが見つかったあと入院の保証人になったのも手術につき添ってくれたのも他人という、「第四のつながり」を信じる50代女性の話(CASE52)からは、家族でなくても人は人とつながっていけば生きられる、と教えられます。

 今回、取材班をまとめた真鍋弘樹記者は「孤族」という言葉に込めた思いをこう語ります。

 「たとえ孤立していても、私たちは『族』、つまり複数なのです。今後、家族から『孤族』へと、人々の生き方が変化していくのは止めようがありません。ならば、あらゆる手段を使って、つながっていこう。私たちは、みんな『孤族』だけど、決してひとりではない」(あとがき)

 未婚でも既婚でも、子どものいる人もいない人も、男性も女性も、誰もが「孤族」になりうる時代、人は一人では生きられないことがひしひしと伝わる一冊です。

 社会学者・上野千鶴子さんら識者へのインタビューほか、朝日新聞社世論調査結果なども収録。

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