大坪正則(スポーツ経営学)
2012年05月22日
選手会は毎年調査の結果を公表しており、選手年俸の実態把握や前年度と比較する時は極めて便利だが、数字を選手の自己申告に頼っているため、どこまで正確なのか判断が難しい。なぜなら、球団収入に占める選手年俸の比率が、米国メジャーリーグ(MLB)やサッカーの英国プレミアリーグの比率と大きく異なるからだ。
ここでは選手会公表の数字を分析し、将来の経営に反映させる方策について論じることにする。
米国のメジャーリーグ(MLB)も毎年選手年俸を公表している。MLBの平均選手年俸は約300万ドル。選手年俸総額は「300万ドルx40名の登録選手x30チーム=36億ドル」となる。MLBの収入総額は約66億ドル。従い、MLBの総収入に占める選手年俸総額の割合は約55%となる。
この55%の妥当性だが、(1)MLBの経営者と労働者(=選手たち)が取り結ぶ団体労働協約では選手たちの取り分を50%と定めている。(2)選手のケガが原因で選手の補充を余儀なくされる場合が多いことを勘案すると、5%程度の年俸支払額増加は予備経費として計上すべきである。この2点を基礎に判断すれば、約300万ドルのMLB所属選手の平均年俸は正確でかつ現実的な数字と言えるだろう。
プレミアの2009-10年シーズンの総収入は20.3憶ポンド。そのうち、推定選手年俸総額は10.4億ポンド。選手に対する分配比率は約51%になる。選手年俸が徐々に上昇したことを勘案して90-10年までの10年間の平均を計ったら44%だった。現在の50%前後の分配比率は妥当な数字と判断できる。
それでは、日本のプロ野球(NPB)と選手会はどうだろう。計算上の基礎となる数字を修正したり、仮の数字を置いてみることにする。各球団の支配下選手数は70名以下となっている。これを基礎に、選手の年俸総額を算出すると、「3800万円x70名x12球団=320億円」となる。一方、一般に言われているように球団平均収入を100億円とし、12球団の合計収入を1200億円とする。
この場合、NPB全球団の収入合計1200億円に占める選手年俸総額の割合は約27%となる。
MLBやプレミアの選手年俸総額が全収入の約50%だから、NPBが選手に配分する「27%」は非常に少ない。この乖離はどこから生じたのだろうか。
可能性として以下が考えられる。
一つ目は、選手の申告額が正確ではないこと。選手が実際の収入よりも少ない額を選手会に申告している恐れがある。球団と口裏を合わせていることもありえる。
二つ目は、本当の球団平均収入は100億円ではなく、それよりはるかに小額であること。巨人・阪神・広島を除く9球団は、親会社及びグループ会社からの“広告費”名目を含めた収入を一切排除した“修正決算”では実質赤字である。だから、球団平均収入よりも、赤字補填(計算上、平均約45億円に達する)前の収入と選手年俸を比べたほうがつじつまが合いそうだ。
だが、実際のところ、上記二つの事項のどちらかが正しいと断定することも難しい。赤字の球団がMLBやプレミア並みに選手年俸を収入の50%前後払うのも現実的経営手法とは言えない。選手たちがやや過少申告をしている可能性が高いこと、及び、外国人選手の高給を勘案すると、申告額よりも3~4割高い平均選手年俸に落ち着くのが現実的と考えられる。そうなると、選手年俸が上がった分、親会社の平均赤字補填額が45億円より2~3割減額される。
以上を踏まえさらに考察を進めると、二つの疑問が出てくる。
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