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偏見をあおるテレビの「不正受給」たたき

水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

 「疑われているのではと人の目が気になり、外出を控えるようになった」「うつがひどくなり、布団かぶって寝ている」

 悲痛な声が寄せられている。過去に取材したことがある生活保護受給者たちからだ。生活保護を受けているというだけで、近所の人から「あなたも不正受給?」という露骨な言葉を投げかけられた人までいる。過熱するテレビ報道によって、いま看過できない生活保護バッシングが引き起こされている。

 人気芸人の母親が生活保護を受給していると週刊誌が報道したのがきっかけだった。その後、芸人の名前が「次長課長」の河本準一さんと明かされ、自民党の片山さつき議員が「不正受給の疑い」と厚労省に調査を要請。河本さんが記者会見すると民放各社が生中継するなど、一気に報道がエスカレートした。以来、ワイドショーやニュースは「生活保護の不正受給」をこぞって特集している。あるニュースは「河本準一さんが、今日、記者会見を行い、母親が生活保護を受給していたとして謝罪しました」という短い原稿で伝えた。まるで生活保護の受給自体が悪いといわんばかりだ。数日後、お笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太さんも母親が生活保護を受給していたと報道され、釈明会見。「梶原さんは不正受給の認識はないと説明しています」など、「不正受給」という言葉がテレビから聞こえてこない日はない。

 生活保護制度を長年取材し、貧困報道のあり方を研究する者として今回のテレビ報道には大きな問題があると感じている。

 まず、お笑い芸人の「公人性」と「プライバシー」の問題。河本準一さんや梶原雄太さんは、身内が生活保護を受給しているという最も知られたくない事実を暴露されても抗弁できない「公人」なのだろうか? 仮に本人が公人だとしても、その母親はどうなのか。報道上実名が出ていないとしても、居住地で「河本さんの母親」は実名同然だろう。取材陣が追い回されていることは?

 「不正受給」という文脈での報道も正確ではない。河本さんの記者会見を中継した民放の番組は、レポーターが「不正受給では?」と質問する様子をそのまま流し、画面に「不正受給では?」という字幕を添えた。国会議員が「不正受給」として問題にしたのをこれ幸いと、

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