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原監督問題で「コミッショナーは戦う」だろうか?

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 本稿の掲題にある「コミッショナーは戦う」は米国メジャーリーグ(MLB)第4代コミッショナーであるボウイ・キューンの自叙伝(『HARDBALL』)の翻訳版タイトルだ。初版が1990年なので、多くの読者はその存在もご存じないかもしれないが、面白いタイトルなので活用させてもらった。

 今、日本のプロ野球(NPB)界は、ある意味、存続の危機に立たされているような気がしてならない。球界の盟主と自他ともに認める読売ジャイアンツが2011年11月以来、スキャンダル続きでメディアの注目を浴び続けている。

 そして、追い打ちをかけるような原辰徳監督の問題。しかし、今回はこれまでとは「問題の質」が違い、途轍もない爆弾を抱えているようだ。常識を逸した「大金」が絡むうえ、どうも反社会的人物(組織)が関与している様子だからだ。かつての、選手の永久追放の例や青少年への影響を考えると、もし監督と反社会的人物との関係が週刊誌の報じる通りであったならば、球界が致命的窮地に立たされるのは避けられない。スキャンダルを暴いた週刊誌は続報も書いている。球界が徐々に分が悪くなっている気がする。

加藤良三コミッショナー

 監督がスキャンダルの主役なのだから、NPBの加藤良三コミッショナーがその職務権限を利用して事実関係把握のために実態調査を命じてもおかしくないが、彼が調査に乗り出したとの話は一切ない。彼には危機意識がないのだろうか。

 いまの流れは、約90年前にMLBで起きた「ブラックソックス事件」に似てきた。1919年のワールドシリーズはシカゴ・ホワイトソックスとシンシナティ・レッズとの間で行われ、レッズの優勝で終わったが、ホワイトソックスの選手が賄賂をもらって故意に負けたとの噂が流れた。当時MLBの裁判官的役割を担ったナショナル・コミッションの調査着手が遅れたために裁判に発展し、後にホワイトソックスの多くの選手が永久追放の処分を受けることになった。

 この事件はMLB史上最大のスキャンダルとして記憶され、一般的に、ホワイトソックスをもじって、「ブラックソックス」事件と称されている。そして、この事件がきっかけになって「コミッショナー」制度が創設されることになったのである。

 米国プロリーグのコミッショナーはもう一つの肩書を持っている。リーグのCEO(Chief Executive Officer)である。リーグを会社組織ととらえ、経営運営上のトップに位置している。

 プロリーグの性格上、コミッショナーは次の三つの役割を担っている。

1)裁判官

 リーグ内に紛争、不祥事、反社会的行為などが起きた時、調査を指示してその内容に基づき裁決を下すことができる。彼の判断は最終決定であり、関係当事者全員を拘束する。

2)ビジネスマン

 フランチャイズ地域を超える全国市場や海外市場で、テレビ、マーチャンダイジング(商品化)、スポンサーシップの知的財産権を現金化しなければならない。そして、得た収入を各球団に均等配分(Revenue Sharing)するので「球団収入の均等化」が進み、「戦力の均衡」に寄与することになる。

3)スポークスマン

 組織の頂点に立つので、正確な情報が最も早く伝わる立場にいる。その体制下で、リーグ内の不祥事、新規の大型契約、重要なイベント開催決定などの情報をリーグからメディア経由でファンとステークホルダーに正確に伝えるために、彼がマイクに向かう義務を負っている。

 NPBのコミッショナーと米国プロリーグのコミッショナーの権限に大きな差はない。要は積極的に動くか否かの違いに過ぎない。仮定の話だが、NPBのコミッショナーがデヴィッド・スターン(現在NBAコミッショナー)だったら、どんな動きをするだろうか。彼の行動について推察してみる。

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