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首相肝いりの「内閣府宇宙戦略室」は何を目指すか

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 野田内閣はさる7月12日付で、暫定的組織だった内閣官房宇宙戦略本部事務局を、内閣府宇宙戦略室という恒常的組織に昇格させた。宇宙政策を官邸主導で統括し、文科省、経産省、総務省などの個別施策を調整するとともに、これまで科学技術開発的な側面の強かったロケット・人工衛星について政府主導の商業利用を進め、国際競争力を向上させることを目指す、という。これは、2008年に自・公・民3党が共同提出して成立した「宇宙基本法」で民主党の窓口であった野田首相肝いりのプロジェクトであり、戦略室の設置は首相就任直後の2011年9月に閣議決定されており、「新成長戦略」の後継として7月11日に発表された「日本再生戦略」でも積極的に推進すると位置付けられている。

 この宇宙戦略室の直近の仕事は、「準天頂衛星」という日本初の衛星システムを開発して2018年ころに運用(衛星を)開始を目指すこと、同時にこのシステムをアジア各国に売り込むこと、が中心になる。準天頂衛星の細かい説明はここでは省略するが、要するに衛星3台のうちどれかが角度70度くらいの「準・天頂」の高さに見えるので、現在位置の緯度経度を正確につかむことができ、カーナビ等でおなじみの米国軍事衛星システムであるGPS(地球測位システム)を補完する機能を果たす。社会インフラの基礎を全面的に米国頼みではいけない、という安全保障が最大の目的になっている。したがって、1000億円以上を要するこのプロジェクトは原則として国費で全額を賄う(地上のアンテナ設備はPFI手法で民間資本を導入する予定)。

 実は、日本で準天頂衛星システムは、民間の商業ベースでスタートさせることはできなかった歴史がある。通信・放送メディアとしての可能性が2000年頃から検討されていたが、想定される収入に比べて設備投資額が莫大すぎることから事業化を断念している。それ自体は賢明な判断であったが、その具体的理由は、拙稿「マルチメディア放送、お客さまの声を聞け」(2010年10月07日)、「NOTTVに捧げる、せめてもの未来図」(2012年05月09日)を参照いただきたい。要するに、このシステムが一番力を発揮する「移動中のメディアサービス提供」のシーンにおいて、消費者からカネをとって成り立たせる方法がないのだ。

 ケータイはどうなのかと問うむきもあろう。ケータイは人とつながる双方向通信の確保にお金が払われていることが本質であり、メディアサービスはソーシャルゲームを含めて無料化に舵が切られて久しい。ケータイの現在位置サービスで消費者が払ってくれる課金程度では、15年おき(衛星は引力にひかれて落ちてしまう)に何台もの衛星を打ち上げなければならないこのシステムの投資額は、支えられない。

 GPSの補完は、実は地上波の通信電波である程度できる。上空が見えなくてもケータイが現在位置をある程度つかめるのは、通信電波を発する基地局アンテナの正確な位置情報を複数受け取っているからだ。歩行やナビの地図の多くには現在位置が道路上にしか表示されない機能があり、自動車ならタイヤの回転数(=速度、距離)とも連動する機能がある。民間での実用上はこれでまったく問題ない。

 何かの業務用なら民間活用のアイデアがあるかもしれないが、上述のような莫大な投資を回収できる課金はかなり厳しい。一方で安全保障目的だとすれば米国の所有物をまったく使わず独自でGPSの代わりになる衛星群を作り上げるべきだろう。これを両立しようとしてEUがはじめた衛星システム「ガリレオ」では、正確な現在位置情報自体に有料での市場可能性なしとして民間事業体は解散し、全額EUの公共事業として進めようとしているが、あてにしている民間利用の有料課金は極めて悲観的だと考えられており、折からの財政難もあって、本格運用自体が危ぶまれる。

 現在位置を把握する衛星システムの生きる道はやはり、軍事を主目的、災害対応を副次目的として、一部無料開放する社会インフラ、とするしかなさそうだ。衛星システムそのものを海外に売っていくとすれば、

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筆者

倉沢鉄也

倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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