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[2]高校野球の連続敬遠は「書かれざるルール」か?

神田憲行 ノンフィクションライター

 大会前から注目を集めている監督がいる。明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督である。高知大会決勝で、高知高校の4番打者法兼選手を6打席のうち5回、四球を出した。うち4回は3ボール0ストライクからのストレートの四球で、そのうち2回は捕手が立ち上がった明らかな敬遠だった。

 馬淵監督といえば有名なのが、星稜・松井秀喜を全5打席敬遠したことである。甲子園球場には非難する怒号が渦巻き、明徳義塾の宿舎にはパトカーが巡回するほどの騒動になった。

 今回の敬遠でも10回、12回の敬遠では観客の「打たせろ!」というヤジが中継マイクに拾われて流れてきた。

 松井のときのような全打席敬遠ではないし、シビアな試合展開だったので、私自身は10回、12回の敬遠は「作戦の範囲内」と考える。しかしネットではさっそく、松井の5打席敬遠を持ち出し、その作戦の是非について議論が始まっている。

拡大明徳義塾の馬淵史郎監督

 誰を何回敬遠しようが、ルールに決まりはない。ただあるのは公式記録で、普通の四球と区別して故意四球を示す「B」を丸で囲むくらいである。

 しかしルールで禁じられていないなら、なにをやってもいいのだろうか。野球には「Unwritten Rules」というものがある。「不文律」「書かれざるルール」といった意味だ。

 たとえばメジャーでは大量点差の場合、勝っているチームが盗塁などを試みれば「敗者を侮辱する行為」と批判される。同じく大量点差で、勝っているチームの打者が3ボール0ストライクからフルスイングしても批判される。ときには死球という「お礼参り」も覚悟しなくてはない。「Unwritten Rules」はルールで明文化されていないが、「やってはいけないこと・やらなくてはいけないこと」のマナーのようなものだ。

 難しいのは「Unwritten Rules」が、同じ野球という土台の上であっても、国などで違うことだ。さきほどの「3ボールからのフルスイング」など、日本で非難されることはないだろう。むしろ試合がほぼ決まったような状態でも「手抜きせずに全力を尽くす」ことが、勝者の敗者への敬意として取られる。

 同じ日本の野球でも、プロ野球と高校野球では「Unwritten Rules」が違う。死球を与えた場合、高校野球では投手は帽子を取って打者にお詫びをする。しなければあとから監督から大目玉を食らうことは必定だ。しかしプロ野球でそのような仕草を求められることはない。

 特定の打者にしつこく敬遠することも、プロ野球なら「作戦のうち」と理解されるだろう。もっとも、つまらない投手、ベンチの采配としてファンからブーイングを浴びる可能性はあるが。

 では高校野球では、特定の打者をしつこく敬遠することは「Unwritten Rules」に触れる行為なのだろうか。「ルールで禁じられていないからよい」という考え方がある一方で、高校野球には「教育としての野球」という側面があることは否定できない。高校野球の監督には「教育者」という側面が求められるのであり、その範囲は自チームの選手だけに限るわけではない。3年間を高校野球に捧げてきた選手に、全打席四球で報いることの是非は問われる。

 先日私はインターネットの放送局「ニコニコ生放送」の高校野球特番に出演した際、この問題について視聴者からのアンケートを求めた。

「連続敬遠はしてよいか」という質問に対して、「してもよい」と答えた人が

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筆者

神田憲行

神田憲行(かんだ・のりゆき) ノンフィクションライター

1963年、大阪生まれ。ノンフィクション・ライター。夏の甲子園取材は今年で19年連続20回目。著書に『横浜vs.PL学園』(共著、朝日文庫)など。守備の巧いショートと三つ目のストライクを内角高めに持ってくる投手が好き。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです