2012年08月11日
「昔はユニフォームで勝てたのだが……」
その時、伝説となったその時、伝説となった1969年の決勝戦、延長18回引き分け再試合の全国制覇から8年が経っており、その間、春も含めて一度も甲子園出場をしておらず、かつての強豪は低迷に喘いでいた。それを嘆いての言葉だった。
翌年、同校は9年ぶりに甲子園出場を決める。前年の記事を覚えていた私は、どんな魔法のユニフォームなのかワクワクして、テレビにかじりついた記憶がある。たが、初戦で初出場の郡山北工(福島)に1-2の逆転負け。少年だった私の目には、松山商のユニフォームは少しも魅力的に映らなかったし、ユニフォームで勝つという意味もわからなかった。
ユニフォームで勝つとは、当然ながらユニフォームが試合するわけではない。強く見えるイメージである。チームの歴史、伝統、栄光など、先輩たちが築き上げた勝利の軌跡は、選手が代替わりしても、ユニフォームに受け継がれ、あるときはユニフォームが放つ威圧感で相手チームを試合前から萎縮させ、またあるときは伝統のユニフォームを纏(まと)った誇りから実力以上のパフォーマンスを生む。そうした効果を意味する。
ユニフォームに強豪としての風格が出てきたか否か。それを勝手に判断するのも高校野球ファンの醍醐味のひとつである。松山商の一件以来、私もユニフォームに興味を持つようになった。そして、ユニフォームにこだわりや誇りを持つ高校が少なくないことも知った。
例えば、春夏合わせて4回優勝している古豪・高松商(香川)はストッキングに白2本、赤色2本、オレンジ色1本の細いラインが入っている。これは春、夏、国体の優勝回数を意味している。甲子園出場経験のあるOBによれば、自分たちの代でラインを増やすことを夢見て猛練習に耐えたという。
2009年夏に70年ぶりに出場した関西学院(兵庫)は、1920年夏、1928年春に全国制覇を達成した戦前の古豪。このチームは、伝統を今も受け継いでいる。エンジ色のアンダーシャツやストッキングは一見普通だが、実は同校の野球部以外の部活動(大学、高等部、中等部含めて)のユニフォームは、すべてスクールカラーの青を採用している。2009年の取材で教頭先生は、
「エンジは全国優勝した当時のユニフォームです。名門校の伝統を今も引き継いで高校の野球部だけは変えていないのです。また、胸のロゴ文字『KWANSEI』という独特な綴(つづ)りも、当時は洒落ていた漢読みを採用し、それもそのまま残しています」
と胸を張った。
今大会に出場したチームも例外ではない。2日目までに登場した14チームに取材すると、やはりユニフォームには様々な思いが込められていることがわかった。
木内マジックでおなじみの茨城の強豪・常総学院は、白地のユニフォームにエンジのアンダーシャツとストッキング。白は「純潔」、エンジは「知性」を表しており、ストッキングにある2本の白いラインは春と夏に各1回全国優勝したことを示している。
白地と青のコントラストのユニフォームが美しい飯塚(福岡)は、スクールカラーのブルーにちなみ、青い空と白い雲をイメージしている。5年前の全国優勝が記憶に新しい佐賀北は、かつてモデルチェンジを繰り返していた。百崎敏克監督の就任を機に、監督の現役時代のモデルに戻し、あの“がばい旋風”を巻き起こした。
「もう変わることはありません。このユニフォームで優勝したんですから」(吉富寿泰部長)
作新学院(栃木)は、シャツとパンツの地色こそマイナーチェンジしているものの、校名ロゴやストッキングなどのデザインは1962年の春夏連覇した時のまま変わらない。二塁手の山梨浩太は伝統のユニフォームについて、試合前に次のように語った
「親が江川卓さんの世代で、栃木と言ったら作新だった。雲の上の存在の江川さんと同じユニフォームなんだと思うと少しだけ距離が近くなったような気がするし、着ていると自信が湧いてくるんです。こっちが上なんだと」
この日、劣勢の展開で三塁打を放ち、反撃のきっかけを作って勝利に貢献した。これもユニフォームのおかげ? ちょっと意地悪な質問をしてみると、こちらに気を使いながら、
「いや~、もちろんそうですけど……でも、今日は先輩の3年生と少しでも野球を続けたかったから、その気持ちで打てたんです」
マイナーチェンジというと、「県工」の愛称で親しまれている広島工は、マイナーチェンジ後に元に戻したという苦い経験がある。
「県工といえば、全国でうちだけの呼び名。だから胸のロゴの『KENKO』は創部以来ずっと同じなんですが、20年以上前かな、それだけじゃわからんという声があって『KENKO』の上に『HIROSHIMA』と入れて、2段にしたことがありました。そしたらOBから、そらもう不評で、すぐ戻しました」(堀川誠二部長)
ユニークな発想を取り入れているのは、
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