2012年08月16日
秋田商との試合前、1回戦で話題となった魔球・ナックルカーブについて記者団から質問が集中すると、福井工大福井のエース・菅原秀は軽やかな口調でそう答えた。
「(秋田商の県大会の)ビデオを見たら、そんなに(打線は)怖くないから。それにこっちは一回やってるし、向こうは初戦ですから」
相手の秋田商は49校目の最後の登場で今日が初戦。一方、福井工大福井は2戦目で、実戦経験があるだけ有利だという。「楽勝ですよ」とまでは言わなかったが、そんな余裕すら感じられる、自信に満ちた表情は記者団を一瞬唖然とさせた。
昨秋、習得したナックルカーブ。プロ入りした先輩の宋相勲(中日)がドラフト前に学校に訪れたときに教えてもらった。人差し指の爪を立て、中指を縫い目にかけながら親指とボールを挟む。本人の表現を借りると「肘から出して、リリースの瞬間に人差し指をはじく」と、ボールはきれいに縦回転し、直球に近い軌道で一瞬浮き上がり、落差の大きいカーブとなる。高低はまだ無理だが、内外はコントロールできるところまでマスターした。
そんな「クリーンヒットは、まだ1本も打たれていない」という魔球を武器に、常葉学園橘との開幕戦で9回5安打10奪三振を奪った。
2回戦の相手は大会出場校中、最低打率の秋田商。私は鮮やかな三振ショーを期待していた。ところが、高校野球は何が起きるかわからない。
立ち上がりから菅原は精彩を欠き、1回から大乱調となった。秋田商1番の柳田一樹に直球を中前へ弾き返されると、すぐに直球が狙われていると察知し、変化球主体の配球に切り替えた。ところが秋田商はその変化球に手を出さない。秋田商打線は魔球を警戒し、2ストライクまで待つ「待球作戦」をとっていたのだ。
「いつもなら振ってくれるはずの変化球を振ってくれない。配球が読まれてると思った」
もう投げる球がないと動揺した菅原は、本来の投球リズムを見失う。結局、この回2安打5四死球を与え、4点を奪われた。
三振ショーどころかまさかの四死球連発。観ていてショックだった。
その後も立ち直ることができず、ボールは高めに浮き、2回は2ストライクから投じた変化球を狙われて本塁打を浴び、3回は先頭から3連続四球を出してベンチに下がった。
試合後、菅原はマウンドの心境をこう明かした。
「なんでストライクがはいらないんやろって。こんなことは初めてです。たぶん原因は力みだと思います」
ナックルカーブを多投する考えはなかったのか?
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