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橋下維新の「瀬戸際戦略」は吉か凶か

前田史郎 朝日新聞論説委員

 元NHK記者、元関西電力社員、元市長……。さまざまな経歴をもつ21人が、橋下徹大阪市長を前に緊張した顔で整列した。

 8月1日、公募で選ばれた新任区長の発令式である。市長は1人ずつ辞令を手渡した後、「大阪だけでなく日本のかたちを変えるために思う存分やってください」と激励し、苦笑いして付け加えた。

 「最終的なことは僕がやります。いや僕が何とかできるかどうかわかりませんが。家庭のこともいろいろありますから」

 一瞬、新任区長はかたまった。間をおいて、数人だけの愛想笑いが聞こえた。

 家庭の問題とは、『週刊文春』が報じた橋下氏の過去の「不倫」のことだ。同誌は北新地のクラブで働いていたという女性のインタビューを載せ、知事就任前の橋下氏とのデートや、コスプレ好きな一面などを暴露させていた。

 この話を、厳粛な発令式の場で初めて笑いのネタにした。「不倫」発覚後、更新をストップしていたツイッターも7月27日に再開していた。他へ話題をそらせ、同時に痛手から立ち直りつつあることをアピールするかのように。

 実際に10日ほど、橋下氏の表情はさえず、弁舌はキレを失っていた。

    ■

 「僕の信用失墜行為」

 こんな件名のメールが、大阪市の全区長、全局長あてに流れたのは7月18日昼すぎのことだ。

 発信者は橋下市長。「明日の週刊文春において、知事就任前の話ではありますが、組織のトップとして、組織の信用を失墜させる記事が出ます。女性関係の話です」と書き出している。

 メールは同氏が労働組合に対し、信用を落とすような行為を戒める発言をしてきたことにふれ、「僕への批判等は、有権者にゆだねます」と結んだ。

 「批判に慣れている市長があんなメールを送るなんて初めてだ。よほどショックだったのだろう」と大阪維新の会の議員は言う。

 7人の子を持つ橋下氏は、家庭を大事にする横顔を持つとされる。昨年の大阪ダブル選挙では、相手陣営が自宅の近くまできて自分を批判する街頭演説をしたことに激怒し、「受験生の子がいるのに勘弁してくれ」と訴えた。

 昨年末には多忙をおして家族で温泉旅行にも出かけている。

 「良き父親」としてのイメージに傷がつくだけではない。地下鉄の運転士がたばこ1本吸っても停職1年の懲戒処分とするなど、常に身を律するよう組織を引き締めてきた同氏にとって、しめしがつかないスキャンダルだった。

 ほとぼりがさめるまでの間、市長としても家庭人としても、表に出たくないほど居心地の悪い日々だったことは想像に難くない。

    ■

 第三極のキーパーソン、既存政党が最も恐れる男――。注目を集め、勢いを増す一方で、当の橋下氏は臆病なほど慎重である。

 7月1日の大阪府羽曳野市の市長選では、維新の支部が推薦した候補が民主、自民推薦の現職に敗れた。昨春いらい吹田、守口、茨木各市長選、大阪ダブル選と首長選不敗だった維新にとって初の黒星となった。

 羽曳野市長選は、橋下氏が大飯原発の再稼働を突如容認し、脱原発の姿勢が腰くだけになった直後に迎えた選挙だ。

 7月29日の山口県知事選では、橋下氏のブレーンだった大阪府市エネルギー戦略会議の元座長代理の飯田哲也氏が自民、公明推薦の元官僚に敗れた。脱原発票をとり込み、善戦したという見方もある。が、勢いが伸びなやんだ選挙終盤は、ちょうど橋下氏の「不倫報道」があった時期である。

 いずれの選挙も橋下氏は応援に行かなかった。

 山口の場合、維新が前面に出れば衆院選での第三極の勢いをうらなう場となったはずだ。

 ――橋下氏が現地入りして勝利すればはずみになったのでは?

 昨年の大阪ダブル選で選対本部長をつとめた今井豊・大阪維新の会副代表は即座にこたえた。

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筆者

前田史郎

前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説委員

1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部、特別報道部等で事件や原発・核問題、調査報道、災害などを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員、論説副主幹を経て18年4月から現職。気象予報士。防災士。共著に『プロメテウスの罠』『核兵器廃絶への道』等。

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