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[23]アルプススタンドの「背中」が語る高校野球への思い

守田直樹 フリーライター

 甲子園での高校野球は、アルプススタンドへの挨拶に始まり、お礼で終わる。選手と一体となった大声援が、ゲームの流れを変えることすらある。

 今夏、アルプススタンドに登ると、応援団などの背中から「熱いメッセージ」が目に飛び込んできた。揃いのTシャツに描かれているのは校章や単なるデザインではない。いろんな言葉を記し、まさに“背中で語って”いた。

 赤いTシャツに白抜きで「絆」とあったのは旭川工(北北海道)。対照的に長文だったのが常葉橘(静岡)だ。

「野球にはそれぞれの役割や持ち場がある。全員が主役である必要は無い。試合ヲツクル者、試合ヲ決メル者、仲間ニツナグ者/野球とはチームの中での自分の居場所を探すスポーツでもあり、その場所を見つける事が出来た者だけが生き残れるのだ」

 野球はよく、人生にたとえられる。一発逆転の本塁打が飛び出せば、痛恨のミスも生まれる。ラッキーボーイが現れれば、犠打でつなぐ脇役や控えメンバーもいる。「自分の居場所を探すスポーツ」だからこそ、人生につながるのかもしれない。

左から旭川工(北北海道)、常葉橘(静岡)、県岐阜商(岐阜)、愛工大名電(愛知) 撮影・筆者(ほかも)

「魂」も高校野球には重要だ。

 県岐阜商の「岐商魂」。今年で創立100周年を迎え、スクールカラーの紫のTシャツに「百念紫魂」と大書した愛工大名電(愛知)。学校内の旧地名「十王台」からとった「十王魂」の文字をオレンジ色のTシャツに背負い、初出場の杵築(大分)の応援団は熱い声援を送っていた。

 その公立高校に圧勝した常総学院(茨城)は、吹奏楽部も全国トップクラス。全日本吹奏楽コンクールで14回金賞を受賞している。

「音楽魂」

 こう書かれた赤いTシャツを着て、倉持里菜子さん(1年)は炎天下で懸命にトランペットを吹いていた。

「みんな音楽が大好きなので、魂を込めて演奏したいと『音楽魂』に決めました。70人の部員のうち15人が現役生でOBの方々といっしょに演奏しています。コンクールに出られる吹奏楽部のレギュラーじゃないので複雑な気持ちもありますが、広い甲子園での演奏はいい経験になると思います」

「魂」を込めた演奏や野球のプレーは人の心を動かす。

左から杵築(大分)、常総学院(茨城)、北大津(滋賀)、立正大淞南(島根)

 監督の指導方針を背負い、選手と一体となっていた応援団もあった。

「迷うな 躊躇うな 一歩もひくな 覚悟の野球」(北大津<滋賀>)

 一方、立正大淞南(島根)も監督が101人の部員に語りつづけた言葉を選んだ。監督を信じ、朝5時から全体練習をして甲子園出場を果たした。

「思いは達す」

 父母会は、このTシャツを200枚以上つくったという。2回戦で大敗後も、捕手の城本昴太朗は何かをやり抜いたすっきりとした表情だった。

「小さいころからずっと甲子園が夢でした。強く思えば甲子園にも来られるんだ、すごいと思いました。野球はこれが最後。甲子園で野球人生が終われて良かったです」

 同じように念じつづけることの重要性を説く言葉が、

「不忘念」(ふもうねん)

 これを掲げて初出場ながらベスト16入りしたのが宇部鴻城(山口)。エースの笹永弥則の父、和彦さんも幼いころから野球づけだった息子のために「不忘念」を誓ってきた。

「自分の息子の応援じゃないと甲子園には来んと決めていました。だから今回が初めてです。私にとっても甲子園は夢でしたから」

左から宇部鴻城(山口)、松阪(三重)、高崎商(群馬)、大阪桐蔭(大阪)

 甲子園は親子はもちろん、親戚縁者の夢でもある。

 「夢」の一字も多かった。

 松阪(三重)は「夢」という漢字の下に「ありがとう」という言葉をそえた。高崎商(群馬)は「夢」という字の下に3年生部員全員の名前を刻んでいた。

 大阪桐蔭のアルプス

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