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マンチェスター・ユナイテッドのNY上場は何のためか?

大坪正則

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 イングランドのプレミアリーグに所属するマンチェスター・ユナイテッド(マンU)が8月10日、米国のニューヨーク証券取引所に上場した。上場によって、マンUは2億3300万ドル(約182億円)を獲得し、この資金を使って商品販売(マーチャンダイジング)の販路を拡大する方針だそうだ。

 しかし、プロリーグに属するチームの経済的特性を考慮した時、マンUの上場そのものには釈然としないものがある。ここで疑問点を整理することにしよう。

 プロリーグの商品は試合である。試合は一つのチームではつくり出せない。必ず二つのチームの対戦によって成立する。興行上、経済的・経営的に独立した二つのチームの共同作業を必要とする点が、他の産業と全く異なる。

 この二つのチームの対戦に対してお金を払ってくれる顧客がファンである。彼らは自分たちが応援するチームに勝ってほしい、優勝してほしいと思っている。同時に、感動と興奮を求めて手に汗する試合展開を期待するので、二つのチームの戦力が均衡していることが望ましい。その戦力を均衡させるためには、球団の収入の均等化と支出の平準化が求められる。そして、球団経営の安定がその実現の前提となる。

拡大名門マンチェスター・ユナイテッドに移籍後、ゴールを決めるなど活躍する香川真司(右)

 そのため、オーナー、球団社長、ゼネラルマネジャー(以上を「フロント」と呼ぶ)、および、監督と選手(以上を「現場」と呼ぶ)は勝利のための戦略を共有すると共に、意思の疎通を欠かさないようにしなければならない。

 それができないと、結果が予測できてしまうような試合ばかりになるので、経済的支援をしてくれるファンが離れかねない。

 こうした点を踏まえつつ、上場が球団経営の安定化に貢献するか否かが最初のポイントになる。

 ファンを惹きつけるにはチームが強くなくてはいけない。強いチームを作るには選手の年俸総額を上げなければならない。選手の年俸総額と戦力は比例するからだ。

 しかし、戦力の優劣は相対的なものだから、選手に使う金額に軽々に上限を設けることはできない。しかも、サッカーは自由競争の世界。特に、マンUの場合、競争相手はイングランド内にとどまらない。ドイツのバイエルン・ミュンヘン、スペインのリアル・マドリードやFCバルセロナ、そしてイタリアのACミラン、インテル、ユヴェントスと世界一を競う立場にあるので、選手につぎ込む金に制限をつけられない。

 だが、この状態は一種の強迫観念に陥りやすく、どうしても年俸をつり上げてしまいがちだ。だから、経営の安定につながりにくい。現にスペインでは、球団の株式化が球団経営の安定化に寄与しなかった。球団を株式会社にしたものの、各球団が競って得た金をすべて選手年俸に回したからだ。ソシオは崩壊し、選手年俸の高騰を招いただけに終わってしまった。

 このようにマンUも、上場によって得た約182億円の多くを選手年俸に使う可能性が高い。

 2番目のポイントとしては、

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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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