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アップル対サムスン、法廷闘争に思う

林信行

林信行 ITジャーナリスト

 日本時間13日早朝には、新しいiPhoneを発表すると噂されているアップル社だが、このiPhoneがこの夏、世界中の大勢の人に「モノヅクリ」というものを再考するキッカケを与えた。サムスン社との激しい裁判のことだ。

 日本では、意匠については争われずバウンシングと呼ばれる映像効果とパソコンとの同期機能という2つの技術的な特許だけが争点となり、サムスンが勝訴する結果となった。

 しかし、裁判として興味深いの英米で重要な争点となったデザインや視覚的印象についての論争だろう。

 大きな液晶の下に用意されたただ1つだけの物理ボタン、本体が原寸大でプリントされ光沢のある銀色で製品名が印刷された白地のパッケージ、横長で平べったい充電端子、立方体に近い形状のかわいらしいACアダプター。アップル社がやり玉にあげたサムスン社の主力製品、ギャラクシーSとiPhoneの間には偶然の一致だけでは片付けるには、あまりにも多くの類似的特徴を備えている。

 もちろん、アップル社の工業デザインは、無駄な要素を取り除いた究極のシンプルさを特徴としており、そこまで突き詰めている以上、ある程度、他社の製品の形状が似か寄ることは避けて通れない点もある。

 とは言え、ソニーなど、ちゃんと製品のデザインというものと正面から向き合っている企業は、その部分に時間をかけ、パっと見てあきらかにiPhoneとは異なる見た目上のアイデンティティーをしっかりと築いている。

 製品デザインの洗練度では、アップルやソニーに届かないものの、他の日本メーカーの製品も頑張っているものは頑張っている。 残念ながらサムスンだけとは言わないが、一時の一部日本メーカーの製品も含め、追従するスマートフォンメーカーの多くは、アップルの成功にあまりにも安易にあやかろうとしてしまったのかも知れない。

 もちろん、先攻する製品にあやかろうということは、歴史の中で常に繰り返されてきており、昭和の時代には、日本も欧米から「猿マネ日本」と揶揄されていた時代がある。

 しかし、そこから日本は大きく成長した。筆者は製品デザインが好きで、毎年4月、イタリアはミラノで開催されるミラノ・デザインウィーク(通称、ミラノサローネ)というイベントに足を運んでいるが、ここへいくと日本のデザイナーは常に尊敬の対象、そして日本のデザインは常に大きな注目を集めており、ソファから家電製品、インスタレーション作品など八面六臂の活躍を見せている。

 公益財団法人日本デザイン振興会の出典で、デザイン重視の携帯電話づくりに力を入れてきたKDDI社の端末が展示されたときも大きな注目と高い評価を得ていた(ただし、残念なことに通信方式などの違いもあり、同社の携帯はヨーロッパでは利用できず、見に来た人たちは残念がっていた)。

 日本はこれだけのデザイン先進国であり、実は多くのメーカーの社内にも優秀なデザイナーがいる(少なくとも数年前まではいた)にも関わらず、ソニーや現在、パナソニックの一部となってしまったサンヨーなどを除くと、経営層がその真価を理解できていないことが多い。今や世界トップ企業となったアップル社の成功の重要要因が優れた工業デザインだと、これだけ世間に広く認知されているにも関わらずだ。

 これは筆者の印象だが、デザインとは製品の色・形のことで、製品の中身をつくりあげた後、上辺に装飾的に貼付けるハリボテのことだと勘違いしている経営者が多いのではないだろうか。そうではない。アップル社のiPhoneが、あそこまで薄く、それでいて緻密かつエレガントかつ頑丈それでいて年間1億台以上という桁外れの台数を大量生産できるのは、スマートフォンの本質は何かという議論を繰り返し、その結果、一番大事でな要素である画面をいかにきれいに見せるかということのために液晶の選定から、その上を保護するガラスの選定、それを貼付ける技術を工夫しと画面に関してだけでも尋常でない議論や創意工夫を重ねている。

 アップルが製品の1つ1つのボタン、1つ1つの内内部パーツ、そしてその生産プロセスの開発といったディテールに対して、どれだけの時間とエネルギーを費やして創意工夫をしているかについては、ぜひ、DVDで発売されている「Objectified」というドキュメンタリー映画を見て欲しい(残念ながら日本語吹き替えや字幕はないが、日本のトップデザイナー、深澤直人氏も登場している)。

 そこにたどり着くまでの膨大な時間やエネルギーのことを考えると、それを見て、簡単に上辺だけ真似したりされたのでは、創意工夫をした分だけ損をする進化や革新を阻む社会ができあがってしまう。

 既に、ただ通話ができて、アプリが動くだけのスマートフォンであれば、名前までiPhoneを騙る偽物が中国などの電気街に大量に、実際のiPhoneなどと比べてはるかに安価に売られている(もっとも、これらの多くは、ほとんど通話以外では使い物にならない粗悪品も多いが)。 今後、 ・・・ログインして読む
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筆者

林信行

林信行(はやし・のぶゆき) ITジャーナリスト

【退任】1967年生まれ。IT系ジャーナリスト・コンサルタント。90年にパソコン誌でニュース記事の執筆を開始。現在、企業や学生向けの講演に力を入れている。主要メディアでソーシャルメディアやスマートフォンの最新トレンドを解説する一方で、海外メディアには日本の技術を紹介。主な著書は『iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか』『スティーブ・ジョブズ 成功を導く言葉』など。

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