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 ロシア杯から帰った後も、彼はずっと考え込んでいたという。

 「耳にこびりついて離れない、パトリックの『音』。そのなかで、彼は外を向いたんだと思います」(父)

 仙台のリンクには、大勢の子どもたちがいる。彼を慕うちびっこ選手も多く、練習は楽しく、穏やかだ。でも、これでいいのだろうか? 名古屋、東京、大阪などのリンクとちがい、国際舞台で活躍する仙台の選手は羽生結弦ただ一人。このままここで練習し続けることに、彼はこのころ、ジレンマを感じ始めるようになる。

 そうこうしているうちに、シーズン最後に彼を襲ったのが東日本大震災。そこから先の2011-2012シーズンは、練習場所さえおぼつかない夏、アイスショー連続出演、初めての世界選手権代表入り、そしていきなりの銅メダル獲得、と慌ただしい一年が過ぎてしまった。

 改めて彼が「外」を向くのは、世界選手権3位の表彰台に立った後のことだ。最善を尽くした試合、初出場銅メダルという嬉しい結果。それでも彼の前に立ちはだかったのは、

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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