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欧州サッカー界も支えるEUのノーベル平和賞 

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 今年のノーベル平和賞に欧州連合(EU)が選ばれた。欧州全体の平和という意味では、欧州サッカー連盟(UEFA)を中心とする欧州のサッカー界もノーベル賞授与に貢献したと言える。そして「平和」を維持する上でも重要な役割を担い続けるに違いない。

 有史以来、戦争を繰り返してきた欧州。特に、第一次と第二次の世界大戦は、欧州を主戦場に、尊い人命を多数奪い、伝統あるたくさんの建物を破壊した。昔と違って、現代の武器は破壊力がケタ違いに大きい。だから、第三次の大戦が起これば人類の存続が危うくなるとの理解・理念を共有した上で、「平和」の理想を求めてスタートしたのがEUの構想なのだ。

 欧州の人々は、彼らを拘束してきた人種、宗教、言語、文化、国境の垣根を取っ払い、これまでの歴史に見られない途轍もない壮大な実験を行っており、最終的には米国の国家体制をまねて、欧州の国々が一つに集約された連邦政府をかたちづくろうとしているが、その道のりの最終章は未だはるかかに遠い。

 EUの歩みの最初となった欧州石炭鉄鋼共同体の設立から60年が過ぎた。共通通貨「ユーロ」を核とする経済と金融の統合化は進んでいるが、政治体制は各国の独立が続いているために、欧州は混乱を招いた。

 現状では、ユーロを共通通貨にしている国が輸入超過になっても、為替調整ができない。輸入超過の穴埋めのために国家の借入金が膨らむことになる。経済力の脆弱な国の国債返済能力が不安視されるとその国の信用ばかりでなく銀行も信用を失い、信用不安が欧州全体にドミノのごとく広まることになる。

 ギリシャから始まった金融危機が欧州全体を覆い、対応を間違えると欧州が再び分裂する可能性が高まっている。そんな危機的状況下でのノーベル平和賞。EUの受賞はこれまでの実績よりも、これからの「期待」に対して与えられたと言える。

 サッカー界は、国際サッカー連盟(FIFA)を頂点に、各大陸ごとの連盟と各国・地域の協会、協会の下部組織であるプロリーグとそのリーグに所属するクラブ(と選手たち)からなるピラミッド型の構造で成り立っている。

 その中でもUEFAの存在は抜きんでている。なぜなら、イギリスで生まれたサッカーは欧州で育ち欧州から世界に広がり、サッカーの中心が常に欧州だったからだ。UEFAの設立が第二次世界大戦後と遅れたのもFIFAで討議される題目のほとんどが欧州に関係することだったからだ。

 現在も同じ状況が続いている。例えば、UEFAが主催するクラブ代表選手権の「チャンピオンズリーグ」と欧州各国の代表戦である「欧州選手権」は実質的に世界一を決める大会であるため、人気と認知はFIFA主催のワールドカップに匹敵する。

 そのため、EU加盟国間の利害が対立して緊張が高まった時、UEFAが主催する国際大会が対立国間の代理戦争の様相を呈することになる。代理戦争が立派な対立緩衝の一手段であることを勘案すると、サッカーの国際大会の「平和」に対する貢献度は極めて高い。

 国際スポーツ組織の人事が欧州に与える影響力も大きい。FIFAが設立されて以来、歴代の会長は、ブラジル出身のジョアン・アベランジェ氏を除き、全て欧州各国の出身だ。IOCも同じであり、歴代会長は米国出身のアベリー・ブランデージ氏を除き、残りは全て欧州出身である。加えて、欧州出身者が各種国際スポーツ連盟の会長職に数多く就いている。

 サッカー界にはUEFAが中心になって進める重要案件がもう一つある。日本でいうところの

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