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菅野、大谷指名の不可解――こんなドラフト制度は不要だ

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 プロ野球(NPB)のドラフトは毎年悲喜こもごもの場面を生み出すと同時に、NPBの経営に関連して様々な問題や課題を提起してきた。

 今年のドラフトもその例から漏れるものではなかった。各球団の指名選手は予想の範囲内だったが、今年ほど何か後味が悪く、釈然としないドラフトはなかったような気がするし、疑念も残った。

 そして、何より、米国メジャーリーグ(MLB)との格差が広がり続け、選手たちの国際間移動がますます活発化するなかで、花巻東高校の大谷翔平投手のように、ドラフトを経ないで直接MLB入りを目指す選手が現れるようになった。こうした環境を直視した時、このまま今のドラフト制度でよいとはとても思えない。

 ドラフト制度が、1936年、アメリカンフットボール(NFL)のバート・ベルコミッショナーによって考案されたことは万人周知の事実だ。その導入の目的は、(1)新人選手の契約金高騰の阻止(2)球団間の「戦力の均衡」の促進、であった。

 だから、前年度最下位球団に最初の選手指名権を与え、順次、成績が悪かった球団から選手を選択する方式を採用しているのだ。それは、最も有望な選手を選ぶことではなく、球団が戦力的に最も弱いところを補強する機会を与えることを意味している。

 これは、ドラフトの実施が「戦力の均衡」を促すとの経営的コンセンサスがリーグと球団にあることが前提となる。別の言い方をすると、新人選手の契約金を抑制する方法はドラフト以外でも見出せるのだから、「戦力の均衡」を促さない仕組みでなければ、ドラフト制度そのものが不必要ということになる。

 かかる背景を踏まえて、今年のドラフトで気になったことが3点ある。

(1)NPBは「戦力の均衡」を経営の柱に置いているのだろうか?

 1年間「浪人」した東海大の菅野智之投手は大願成就した。読売ジャイアンツ(巨人)の単独指名を受けて晴れて巨人入団が確実となった。彼も巨人も大満足に違いない。だが、この指名は重大な問題を提起した。明らかに過去の「逆指名」と同じだからだ。

 さらに、ルール違反でなければ何をしてもよいとの悪しき慣習も作った。もっと言うと、ドラフト前に「巨人以外の球団に指名されたらMLBに行く」と発言し、他球団に指名を回避させるという姑息な方法もとった。

拡大巨人に指名され、原辰徳監督と「グータッチ」する東海大の菅野智之

 私の周りの学生は、「菅野と巨人はずるい」との意見が多かった。しかも、彼らは彼の巨人固執に白けていてさほど関心を示さないのだ。これも野球離れかな、と感じざるを得ない。

 結局、彼も巨人も「悪者」になるのを避けることができなかった。よくわからないのは、巨人は彼を単独指名すると多くの野球ファンから嫌われるとわかっているのになぜ強行突破したのだろうか。呆れるばかりだ。同時に、巨人が彼に執着する姿勢はNPBの経営の根幹に触れることにもなった。

 そもそも、NPBは、経営の柱に「戦力の均衡」を置いているのか、それとも、球団の経営努力を競い合う「自由競争」が建前なのか、はっきりしない。これが不明瞭だからドラフトも中途半端なのだ。

 菅野投手のような逆指名がまかり通るのであれば、明らかにNPBの経営は「自由競争」の下でおこなわれていることになるので、ドラフトは茶番劇ということになるし、ドラフトが完全に形骸化したことになる。

 だから、NPBはドラフト制度を云々する前に、「戦力の均衡」の下でおこなうのか、「自由競争」の下でおこなうのか、明確にする必要がある。もし、巨人の行動のごとく、逆指名の「自由競争」ならば、ドラフトをする必要はないのだ。

(2)北海道日本ハムファイターズの大谷投手指名の目的は何なのか? ・・・ログインして読む
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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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