2012年11月23日
スケーティングを、基礎から身につけ直す。4回転ジャンプを、確実なものにする。そして、ケガが慢性化した身体をケアする……。やるべきことが山積みだった、羽生結弦のカナダ生活。
日常のルーティーンをまだ慣れないリズムでこなしつつ、オフシーズンの早いうちに、手をつけておかなければならないことがあった。
それは、フィギュアスケート競技の大きなカギを握るもの、プログラムの制作。羽生結弦は今シーズン、初めて外国人振付師にプログラム作りを依頼することになったのだ。
これまでの彼は、ジュニア時代から昨シーズンまで、一貫してコーチの阿部奈々美振り付け作品を滑ってきた。
トップスケーターの多くが国内外の専門振付師の下でプログラムを作るなか、コーチが振付師も兼ねるケースは、今や少数派だ。世界選手権上位の指導者では、ニコライ・モロゾフや佐藤有香コーチ、また村上佳菜子のショートプログラムを手がけた樋口美穂子コーチくらいだろうか。
コーチが振付師でもある場合、日々の練習の中でプログラムの手直しができるという利点がある。また阿部コーチの振り付ける瑞々しいプログラムは、これまでの羽生結弦によく似合ってもいた。
「プログラムは、奈々美先生におまかせです。僕が好きで滑りたい曲はいろいろあるんですよ。でもその曲が、果たして僕のキャラに合ってるのかは、わからない。どの曲が今の僕に合うのか……それを見極めるのは僕ではなく、コーチとしてずっと客観的に見てきた、奈々美先生だと思うんです」
仙台時代の彼も、よくそんなことを語っていた。しかしカナダに渡り、「新しい結弦」をアピールしたい今シーズン。未知の振付師の手に自分のプログラムを委ねることは、ちょっとわくわくする挑戦でもあった。しかも彼は、一気に4人の新しい振付師とのコラボレーションを体験することになったのだから。
ショートプログラム担当のジェフリー・バトル。フリープログラムのデイビッド・ウィルソン。エキシビションナンバーを振り付ける、カート・ブラウニング。そして、もうひとつのエキシビションナンバーを宮本賢二。
誰もが振付師として、あるいはスケーターとして知らぬ人はない存在だ。このうちの誰かひとりと組んだだけでも、十分ひとつのトピックになる。そのくらいのビッグネーム4人から、一挙に指導を受けることになったのだ。
なかでも多くの人々がその人選を意外に思い、また楽しみに感じたのは、ショートプログラムを振り付けたジェフリー・バトルだろう。08年世界選手権で優勝した、男子シングルの元世界チャンピオン。現役競技生活を退いてまだ4年、それほど振付師としてのキャリアが豊富なわけではない。
そんな彼が今シーズンは、羽生結弦、そしてパトリック・チャンと、男子の世界メダリストふたりを手がけることになったのだ。
「今回ユヅルの振り付けができたこと……とても光栄ですよ。彼のようにすばらしいスケーターと仕事をする機会は、そうそうないもの。それに僕は、振付師としてはまだ2、3年のキャリアしかありません。だからとても幸運です。ほとんどの振付師は、ここまで幸運ではないんじゃないかな(笑)」
バトルに羽生結弦の振り付けをぜひ、というアイディアを出したのは、ブライアン・オーサーコーチだという。
「とても幸運で、とても光栄。そして、とてもエキサイティングな経験でした。優れたスケーターと顔を合わせる最初の日は、とても緊張するものです。自分の能力に自信はあるけれど、もしかしたらこのスケーターを、十分プロデュースできないかもしれない……なんて、自意識過剰になってしまうんですね」
世界チャンピオンでありながら、振付師としては新人で、まだ30歳のバトルが感じた緊張――。それゆえでもあるのか、ふたりがトロント近郊のリンクで相対した日、
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