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巨大IT企業GAFMAとどう付き合うか 出版界が今考えなければならないこと

植村八潮

 最近、海外出版界ではグーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップルの米国巨大IT企業5社を、出版業界に対する脅威とみなし、その頭文字をとってGAFMA(ガフマ)と呼ぶそうである。講談社の野間省伸社長が、6月にケープタウン(南アフリカ)で行われた国際出版連合(IPA)の会議に参加した際、耳にした言葉だという。欧米の出版社にとって、GAFMAは事業パートナーであり、かつ、一部で競合するライバルでもある。これらの会社とどう付き合っていくかが重要な課題となっている。では、日本の出版社はどのように対応したらよいだろうか。

 野間社長は、7月に東京ビッグサイトで開催された国際電子出版EXPOのシンポジウムに登壇した際にも、GAFMAを話題にした。野田社長と一緒に登壇した楽天の三木谷浩史社長が「打倒アマゾン」を叫ぶのは、ライバル以外の何者でもないからである。一方、大手だけでなく中小の日本の出版社にとっても、アマゾンは重要な事業パートナーであり、国内で一番、本を売っている書店に他ならない。

 リアル書店の売り上げが落ちる中で、アマゾンのシェアが伸びているのは日米共通の事実である。量販店が大型化するのは、販売シェアを高めることで、メーカーに対して卸正味や条件を優位に進めるためである。同様に出版社と書店との直取引の多い米国では、アマゾンのシェアが高まることで、出版社は厳しい条件交渉に臨んでいる。

 しかし、日本でアマゾンのシェアが高まっても再販制度があることから、米国のように即、脅威とはならない。それにもかかわらず欧米の出版社は、GAFMAとの付き合い方を課題とし、日本は、むしろ脅威ととらえる傾向がある。

 考えられる理由として、欧米の出版社は巨大資本であり、十分な交渉力を持つメディアコングロマリットの傘下にあることだ。一方、日本の出版社は大手といえども、大きな資本力を持つわけではなく、書籍出版社は零細企業といった方がいい。

 もし、再販制度がなくなったら、卸価格の条件は間違いなく販売会社に有利になる。その不安は、すでに電子書籍で起こっているのだ。2010年末、公正取引委員会は再販制度の対象として、「電子書籍は含まれない」という見解を示している。GAFMAによる電子書籍販売が本格化した場合、それに伴って米国同様にチャネルの寡占化が起こる可能性は大である。その際、個別の価格交渉に臨む日本の出版社は、赤子同然である。

●文化大国としてぜひやってほしい施策

 では、国内出版社が海外資本と対等な付き合いを確保するためにはどのような方策が考えられるだろうか。他産業で一般的に行われているのが、国や行政による産業活性化のための政策である。

 国内産業の保護と育成は農業、工業を問わず、明治の開国以来、常に政治と外交の問題であった。特に戦後、国内産業が高度成長の道を歩み始めると同時に、次々と海外企業が国内市場に参入を始めている。繊維、自動車、コンピューターなど、国内企業は国内市場を守りつつ、海外で熾烈な競争をして企業の国際化を図ってきたのである。

 一方、これまで出版政策としては、再販売価格維持制度を数少ない例外として、特段、出版産業に対する法的保護や産業育成策もなかった。日本語という言語の壁は、強力な非関税障壁となっていて、保護や育成策がなくても何とかなってきたのだ。

 また日本の出版界は雑誌ジャーナリズムを持つことから、時には公権力と対峙してきた歴史がある。出版の自由の観点から、長年、政府と一定の距離を保ってきたこともある。経済団体の重要な仕事は、ロビーイングだが、日本の出版団体がやったことといえば、出版社の著作隣接権を文化庁相手に交渉してきた程度だろう。

 しかし、ドイツ、フランスや韓国など諸外国によっては、むしろ積極的に文化政策・出版産業育成策がとられている。

 日本の出版界は、海外へ出て行って競争をすることなく、言語の壁に守られ国内市場にとどまってきた。国際市場を相手にシステムを鍛え上げてきたアマゾンやグーグルとの違いがそこにある。GAFMAが、言語の壁を越えてやってきたとき、日本の出版界は周回遅れの競争に参加することになったのである。

 2010年は、日本の出版界が電子書籍によって国際化の幕を開けた年であり、まさに「電子書籍市場国際化元年」なのである。だからこそ、国による政策が求められた年でもある。その意味でも、2010年春に開催された総務省、経済産業省、文部科学省による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」は重要な役割を果たした。これを契機に、コンテンツ産業の育成、著作物の海賊版対策などの点から、いくつかの政策が行われるようになってきた。

 最近、注目されたのが、海外からの電子書籍販売に対する消費税課税の問題である。海外サーバーを利用したダウンロード販売では、日本の消費税は適用されないのが原則である。これではアマゾンが電子書籍販売を開始すると、近い将来10%になるかもしれない消費税分の価格差が国内外の事業者の間で生じてしまうことになる。今回、明らかになった財務省方針「アマゾンなど海外勢の電子書籍も消費税課税」(朝日新聞6月29日付朝刊)を引き出すために、国内電子書店関係者も積極的な運動を行っていたようである。

 そもそも、韓国の消費税は1977年の法施行以来、新聞や出版物を免税品として扱い、課税されていない。出版物は基礎的公共財と見なされているのだ。同様にEU諸国でも出版物を付加価値税における軽減税率の対象として取り扱っている。「文化大国日本」にも、まねてほしいところである。(「ジャーナリズム」12年8月号掲載)

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植村八潮(うえむら・やしお)

専修大学文学部教授。(株)出版デジタル機構取締役会長。1956年千葉県生まれ。東京電機大学工学部卒業。東京経済大学大学院コミュニケーション研究科博士後期課程修了。著書に『電子出版の構図』(印刷学会出版部)。