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ソーシャルメディアとテレビ つぶやきながら見る新しいスタイル

橋本大也

 テレビ視聴のスタイルが、ネット世代を中心に変化している。NTTアドが今年7月に、首都圏在住の15~59歳の男女500人を対象に行ったネット調査によると、全体の4割、特に20代では6割以上のユーザーがテレビを見ながらソーシャルメディアに投稿しているという結果が出ている。

●テレビ番組と連動するスマホのアプリが急増

 米国では最近、テレビコンパニオンアプリ(TV Companion Apps)と呼ばれるスマートフォン(スマホ)用のアプリが人気だ。ポータルサイトやテレビ局、番組などが、視聴者に関連情報を提供したり、ソーシャルメディアへの参加を促したりする。

 その代表格が、米ヤフーの提供するIntoNowだ。テレビにスマホやタブレット端末をかざすと、音声認識技術により、放映中のテレビ番組を特定して、関連情報を表示する。スポーツ番組では選手データ、ドラマなら俳優やロケ地情報、バラエティーであれば紹介された店や商品情報など、より詳細な情報を掲載したサイトへのリンクなどが表示される。ユーザーは番組に「チェックイン」して情報をツイッターやフェイスブックへと投稿して仲間と共有できる。タイム誌が選ぶ、2011年度のスマホ向けのベストアプリに選ばれた。

 このほかMiso、BuddyTV、Dijit、yap.tv、GetGlueなど、数十件のアプリ(番組単位では数百件)が乱立している。動画を見ながらおしゃべりをするというニコニコ動画のようなコミュニケーションを、今度はテレビとスマホで行う流れが定着してきた。

 日本でもまたコンパニオンアプリの進化が始まった。マイクロソフトの「テレBing」は番組表とソーシャルなつぶやき機能を提供して人気がある。

 国内のアプリは、視聴率グラフを使ったものが人気なのが特徴だ。多チャンネルの米国と違い、日本の首都圏のテレビのチャンネル数は7局程度と少なく、画面で一覧できて、グラフで比較しやすい。

 TuneTVは各局のツイッターのハッシュタグを監視して、いま盛り上がっている局は何チャンネルかを、棒グラフで見せるアプリ。現在は首都圏のキー局のみの対応だが、分単位で変化する話題率グラフの動きが面白い。グラフの盛り上がりをクリックすると、どんなことがつぶやかれているかを読むことができる。

 こうしたアプリを使うと、まずネットで盛り上がっている放送中の番組を見つけて、そこにチャンネルを切り替えるという新しい視聴スタイルが実感できる。またテレビを楽しむためにネットで関連情報を見るというのではなく、ネットのソーシャルコミュニケーションを楽しむためにテレビを見るという、従来とは逆転した発想の視聴スタイルもあることに気がつく。

●オリンピックで目立ったソーシャルメディアの力

 ロンドンオリンピックは、ソーシャルとの相性が抜群だった。深夜帯の放送でのパブリックビューイングは、リアルよりも、ソーシャルメディアでこそ大いに盛り上がっていた。

 私の経営するデータセクションでは、「ソーシャルTV推進会議」という研究会に、オリンピック期間中のツイッターの投稿内容の分析、およびアイフォーンのユーザーに対するアンケート調査などのデータを提供した。その結果、以下のようないくつかの興味深い結果が得られた(図)。

・ロンドンオリンピックで、ネットで最も話題になった「ソーシャル金メダリスト」は体操個人金メダルの内村航平で、「銀メダリスト」はサッカーの永井謙佑。

・ソーシャルメディアで言及された選手ランキング上位30人のうち、14人がサッカー選手で、またテレビ視聴率ばかりかソーシャルメディアにおいても、盛り上がった競技の上位にランクされたのはサッカー(男女とも)。

・視聴中に利用したソーシャルメディアはツイッター が43・1%と圧倒的に多く、次いでフェイスブックが25・4%。

・視聴中のソーシャルメディアへの投稿のうち最も多かったのは「他者の投稿に対する賛同やリツイート」で、利用する効果としては、「知人・友人との一体感」が最も多く、次いで「競技の進行状況や選手のプロフィールなどの情報が得られた」という意見が多くなっていた。

 視聴率では何時何分が盛り上がったというデータしか取得できなかったが、ソーシャルメディア分析では、視聴者が具体的に、誰に注目していたか、何を感じたか、そしてネット上でどんなコミュニケーションが行われたかという詳しい情報を得ることができた。現在の視聴率の次に来る、新しい番組評価軸を確立するための材料となるものだと考える。(「ジャーナリズム」12年10月号掲載)

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橋本大也(はしもと・だいや)

データセクション株式会社取締役会長。1970年神奈川県生まれ。早稲田情報技術研究所、メタキャスト、日本技芸などでも取締役を務める。またデジタルハリウッド大学教授、多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授として知識イノベーション論などを担当。著書に『情報力』、共著に『新・データベースメディア戦略。』『ブックビジネス2・0』等。