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 長いこと日本警察を見てきましたが、2012年ほどほころびが目立った年は珍しい。不祥事は多く、基本を忘れた捜査が横行し、事件の証拠品をなくす。夫婦を殺して放火した警察官までいました。組織と人が壊れつつあるのを感じます。それを食い止める手立てが見つけられない。強大な権力と武器を持つ警察がこの有り様では、今後も国民が大きな被害に遭うおそれがある。憤りとともに振り返ります。

●失態で幕開け

 とんでもない失態で2012年が幕を開けました。1995年の公証役場事務長拉致事件で特別手配されながら、逃亡を続けていたオウム真理教の平田信・元幹部が、昨年12月31日午後11時35分、東京・霞が関の警視庁本部に出頭してきたのに、警備の機動隊員がこれを追い返しました。平田被告の手配写真を持っていたのに確かめもせず、いたずらと判断してしまった。

 追い返した警察官の指示通り、平田被告が近くの警察署に行ったから元日に逮捕できたものの、出頭を取りやめて再び逃亡していたら警視庁トップの警視総監のクビが飛んでいたことでしょう。

 1月には警視庁の失態がもうひとつありました。台東区のマンションで台湾の女子留学生2人を殺した疑いで手配中の台湾人留学生の男を、名古屋市内で見つけたのに車で任意同行中、自殺されてしまったのです。厚手のズボンの中に隠し持っていたナイフを見つけられなかった。凶悪犯の持ち物に細心の注意を払うという基本ができていない。拘束を振り切り、捜査員に切りつけるだけでなく、市民に襲いかかったらどうするのか。

●誤認逮捕

 無実の人が逮捕される事態がまたありました。遠隔操作されたパソコンによる犯罪予告事件です。警視庁と神奈川県警、大阪府警、三重県警が1人ずつ、計4人を誤認逮捕しました。12月にそれぞれ検証結果を公表し、くどくどと書いていますが、要はネット上の住所であるIPアドレスで犯人と疑い、裏付け捜査を怠って身柄を不当に拘束したのです。

 2008年の東京・秋葉原無差別殺傷事件を機に警察は、ネット犯罪予告に対し、厳しく対応する方針で臨みます。「予告が実行される前に逮捕せよ」でした。理解はできますが、権力を行使して自由を奪うのだから、IPアドレスや供述に寄りかかるのではなく、それ以外のもので裏付けしなくてはいかん。捜査の基本中の基本でしょう。

 しかも今回は、警察知識の数段上をいく遠隔操作可能なウイルスを使う手口でした。基本を怠ったうえに「知識が足りなかった。ごめん」ではすまないでしょう。

 足利事件や富山・氷見事件など無実の人を逮捕した過去から何も学んでいないのではないか。警察捜査をチェックする検察、警察の求めに応じて逮捕状を出す裁判所も反省するべきだと思います。

●暴力団との癒着

 壊滅に向けて激しく責め立てている暴力団に捜査情報を漏らし、見返りにカネをもらった警部補が逮捕されたのは7月でした。警部補が所属するのは福岡県警です。福岡県には、全国21の指定暴力団のうち、北九州市の工藤会など5つがあります。

 市民には「暴力団排除に協力を」と呼びかけ、ときに危険にさらす警察が、暴力団に情報を漏らして賄賂を受け取る。この行為が、せっかく定着しつつある排除機運をしぼませ、「警察なんて信用できねえ」と不信を招くとなぜ思い至らないのか。

 取材先の暴力団関係者は言います。「カネに詰まっている警察官を常に探している。警察に逮捕されたり、家宅捜索されたりするのは避けたいので情報を引き出すため。はした金で取引に応じてくれる奴は簡単に見つかる」。この警部補も仕掛けられた網にかかってしまったのでしょう。

 公判で検察側は動機を「組幹部らに恩を売り、情報提供者として抱き込もうとした」と指摘しました。動機はいい。でも賄賂をもらってはだめだ。したたかな相手との接触の仕方は難しい。教えられる先輩が周囲にいなかったのでしょうか。

 暴力団に打撃を与えるには、上物の情報に基づく捜査が最適です。でも最近は暴力団側からの情報収集力が落ちている。これを引き上げないと、こうした安易な癒着はまだ続くでしょう。

●警察情報漏らしの連鎖

 警察にしか知り得ない情報を漏らすのは福岡県警に限りません。

 長野県警の巡査部長2人は、車の使用者情報を県警OBの探偵業者に漏らしてクビになりました。37台分で7万4千円、25台分で3万5千円相当のビール券をもらい、その数百倍の退職金をふいにしました。そんなことより、求めに応じて個人情報をせっせと流す無神経さ、自覚のなさに怒りを覚えます。

 滋賀県警の警部補は、不倫相手の女性に捜査情報を漏らしていました。捜査中の事件関係者の情報や、ネット上に悪口を書かれたと警察署に相談に来た男性の情報です。売ってカネを得るのが目的ではなく、「女性の関心を引くため」でした。減給処分を受けて自ら退職しましたが、警察官の資質が決定的に欠けている。もっと早くに退場するべきでした。

●繰り返したストーカー対応の失敗

 昨年あった長崎ストーカー殺人事件で、被害者へのずさんな対応を非難された警察が、またストーカー事件で取り返しのつかない失敗をしました。今年11月に神奈川県逗子市に住む女性が、元交際相手の男に殺された事件です。

 昨年6月、女性への脅迫容疑で県警が男を逮捕した際、女性が隠していた結婚後の姓のほか、住所を部屋番号まで読み上げたのです。法律上は必要な手続きだそうですが、杓子定規にそんなことをすれば執拗に女性を追い回す男にその材料を与える、となぜわからないのか。目の前の事態に対応できない硬直思考、被害者のことを考えられない想像力不足にあきれます。

 保護観察所との連係不足も問題でした。脅迫事件で保護観察処分付きの執行猶予判決を受けた男に、保護観察所は、メール送信を含む女性への一切の接触を禁じていました。男は女性に千通を超えるメールを送っていましたが、警察はストーカー規制法に触れないと立件を見送っていました。大量メール情報を共有していれば、男の執行猶予が取り消されて服役し、殺人は起きなかった可能性がある。

 警察庁は、保護観察所との情報共有制度を来年にもつくる予定ですが、重大な結果の後ではいかにも遅い。

●重大事件容疑者の自殺、殺人容疑で警部補逮捕

 12月に入っても「いい加減にしてくれ」と叫びたくなる出来事がありました。

 兵庫県尼崎市の連続変死事件で、殺人などの容疑で逮捕されていた角田美代子容疑者が、県警本部の留置場で自殺しました。

 布団の中で、長袖Tシャツを首に巻き付けたことによる窒息死でした。

 彼女の周辺で6人の遺体が見つかり、3人が行方不明となっている大事件の中心人物です。自殺によって全容の解明はできなくなりました。自殺をほのめかしていたため、県警はその行動に注意を払う「特別要注意者」に指定、1時間に4回の見回りを6回に増やしていたのに見抜けませんでした。

 県警は自殺直後の説明で「落ち度や規定違反はない」と主張しましたが、謙虚に冷静に経緯を検証して結果を公表しなくてはなりません。せめて同様の事態を防ぐ教訓を引き出しましょう。

 22日に富山県警警部補が、2年前の殺人事件の容疑者として逮捕されました。10年4月に、

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筆者

緒方健二

緒方健二(おがた・けんじ) 朝日新聞西部報道センター記者

朝日新聞社会部員(組織暴力専門記者)。1958年大分県生まれ、同志社大卒。毎日新聞社を経て88年入社、92年東京本社社会部。警視庁警備・公安、捜査1課、国税などを担当、99~2004年警視庁キャップ。東京社会部デスクを経て、04年から警察・事件担当の編集委員。地下鉄サリンなど一連のオウム真理教事件のほか数多の殺人、贈収賄、暴力団犯罪などを取材。17年4月から西部報道センター。

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