水島宏明
2013年01月10日
テレビが政治を決めると言われて久しい。今回の総選挙でテレビがどのように作用したのかしなかったのか。詳しくは専門の研究者らが調べることだろう。いずれにしても主要メディアの凋落が叫ばれるなかテレビが今も一定の影響力を保持していることは間違いない。それを前提にした上で、私の中で蠢いているのは今回の選挙で、テレビがマイナスの働きをしたのではないかという疑念だ。テレビ史上例のない12政党乱立と争点の多さ。そして問題の複雑さを目の前にして、テレビ各局や各番組の多くが「各党の政策」について「分かりやすく解説する」という役割を果たす意思を放棄して、いわば敵前逃亡してしまったのではないだろうか。そんな疑いを強めている。
テレビ報道で最大のネックは放送時間が限られていることだ。ニュース番組でも特番でも時間の制約に縛られる。そのなかで各党の政策を紹介するだけでも12政党。個々の争点でも20秒ずつ読み上げても4分かかる。30秒ずつなら6分だ。ニュース番組ならこれだけでちょっとした特集のサイズだ。まして争点はいくつもある。原発、景気、消費税、TPP、子育て支援、地方分権、被災地復興……。真面目にやればやるほど時間を食う。しかもそれぞれの分野での正解はとなると難しい、○か×の回答ばかりではない。情報過多な政策報道は視聴者から見た場合に「興味深い」ものではあるまい。公示前後から投票までの期間中、ニュースでは選挙の他に、中央自動車道笹子トンネル崩落事故、尼崎連続不審死の角田容疑者の自殺、ゴン中山の引退、中村勘三郎死去、東日本大震災の余震で津波警報、北朝鮮のミサイル発射、中国機の領空侵犯などの興味を引くニュースも相次いだ。そんななかで、各テレビ局の報道関係者は必要とされる選挙報道、すなわち「政策報道」を意識的にか無意識下でか「ネグった」のではないのか。
私自身は長くテレビ報道の現場にいて、選挙のたび「政局」ではなく「政策」を伝える報道の必要性を感じてきた。大学の研究者という立場になって初めて迎えた今回の総選挙では、テレビ各局がどこまで「政策」(あるいは「争点」)について報道するのか、注目していた。
12月4日の総選挙公示の夜。NHK『ニュースウォッチ9』のキャスターは冒頭でコメントした。「日本は今、分かれ道に立っています」。他のニュース番組も総選挙について伝えるたびにキャスターたちは「かつてないほど大事な選挙」「今後20年間の進路を決める選挙」などの前振りを口にした。ところが、報道の中身はどうだったのだろうか。
12月4日の公示から16日の開票まで、テレビは総選挙について、何を報道したのか。あらゆる番組を録画してチェックしてみた。するとニュース番組で圧倒的に多かったのが「注目の選挙区」報道。
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