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[3]蛮行

中村計 ノンフィクションライター

 しかし我喜屋の言葉は、そんな匠吾の心をも貫いた。

 「これまで出会った人の中で、心から『はい』って言えたのは、我喜屋監督ぐらいじゃないですかね。どんどん洗脳されていきましたから」

 車の中で、匠吾は我喜屋に「人の顔を殴るってことは、どういうことかわかるか」と聞かれた。応えに窮していると、我喜屋はぴしゃりと言った。

 「自分の母親の顔を殴ることだぞ」

 匠吾は、鈍器で頭を叩かれたようなショックを受けた。

拡大ノック中、怠慢なプレーに我喜屋優監督の大きな声が響く=2007年6月

 我喜屋はさらにこう続けた。

 「山のように動じない心と、海のように静かな心と、空のようにいろんな角度から物を見渡す視野を持つようにしれ」

 これまで人から殴られてもほどんと痛みを感じたことはなかった。そんな匠吾が我喜屋の言葉に胸を痛めていた。

 玉城に到着するなり、匠吾は我喜屋の先祖の墓に連れて行かれた。我喜屋の「おまえもあいさつしろ」という声にうながされるまま、手を合わせた。

 墓参りが済むと、「浜辺の茶屋」という喫茶店に車を移した。

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筆者

中村計

中村計(なかむら・けい) ノンフィクションライター

1973年生まれ。千葉県出身。同志社大学法学部卒。スポーツ新聞記者を経て独立。『甲子園が割れた日―松井5連続敬遠の真実―』(新潮社)でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。ほかの著書に『佐賀北の夏』(ヴィレッジブックス)、共著に『早実vs.駒大苫小牧』(朝日新書)、『横浜vsPL学園――松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)など。『雪合戦マガジン』の編集長も務める。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです