前田史郎
2013年01月22日
●玉虫色の決着
「スポーツ指導で指導者は絶対的な存在。学校は暴力を止められず、生徒も保護者も無批判に受け入れていた。今の桜宮は新入生を迎え入れられる状態ではない」
1月21日、橋下氏は市教委の5人の委員と事務局の職員を前に約30分間、自説を述べた。
桜宮高校の体育専門科の入試を例年通り実施するか、それとも中止か。
橋下氏が退席した後に開かれた教育委員会議は、この問題で約2時間、激しい議論となった。
委員5人の採決では4対1で中止が決定。橋下氏の意向通りとなった。ただし体育系の定員120人を普通科として募集し、受験科目も体育系の募集要項に準じるという。いわば橋下氏の顔も立て、同時に同校体育科をめざす受験生にも配慮した玉虫決着だ。
橋下氏と市教委とのバトルは問題発覚から数日後に始まった。
1月15日、この問題を巡る意見交換は3時間半に及んだ。
橋下氏は「クラブ活動のあり方を変えるなら保護者や生徒の意識も変わらないといけない」と中止の理由を説明した。
永井哲郎・市教育長は「入試はもう直前に迫っている。中学3年生はほとんど進路を決めているタイミングでの中止は影響が大きい」と懸念を示した。
会議後の記者会見で橋下氏は「受験生には申し訳ないが、意識を改めてもらう」と話した。
入試に関する権限は市教委にある。市教委は「体罰・暴力行為等対策本部」を設置。1か月以内に関係者を処分し、今年度中に全市立小中高校を対象に体罰の実態を調べることを決めていた。
しかし「政治の出番だ」ともいう橋下氏は市教委に対応をまかせず、「自分が仕切る」という姿勢を日増しに強めていった。
●大阪有数の強豪
桜宮高校は入学生の半数近くが体育科とスポーツ健康科学科が占める。
阪神タイガースの矢野輝弘や女子柔道の五輪銅メダリスト立野千代里ら、五輪選手やプロ野球選手も輩出し、公立では大阪有数のスポーツ校だ。
今回、問題になった顧問は日体大の出身。1994年、保健体育科教諭として同校に赴任した。バスケ部を過去5年で3回、インターハイに出場させ、同部を全国大会の「常連校」に育てた。
腕のいい指導者として評価される一方で、手をあげる指導方法は校内では知られていた。
生徒の自殺後に学校が部員を対象にしたアンケートでは、男女の部員50人中21人が「(自分も)体罰を受けた」とこたえ、48人は「他の生徒が体罰を受けるのを見た」と回答した。
自殺したバスケ部の主将は前日の練習試合でミスをしたとして殴られ、帰宅後、親に「30~40発殴られた」と漏らしていた。
最悪の事態を避けるきっかけはあった。
一昨年9月、市の公益通報窓口に匿名の人物が校名をあげ、体罰の情報を寄せた。市教委は桜宮高校に事実確認を指示したが、学校側は顧問への聞き取りしかせず、「体罰はない」と回答した。生徒からの聞き取りは「情報が具体的でない」としてしなかった。
同校では一昨年、バレー部顧問による体罰が発覚していた。丁寧な調査が必要だったはずだ。
加害と被害双方の当事者から話を聞くのが通報処理のセオリー。そうしなかったのは、学校の名を売ることに貢献している顧問に遠慮したといわれても仕方ない。
体罰の現場は、バスケ部の2人の副顧問が見ていたのに、止めなかったことも判明した。
●首長と教育行政
実態を解明し、そのうえで市教委と学校を根本的に改革する必要があるのは間違いない。
しかし橋下氏が主導することが最善策なのかは、疑問がある。
入試の中止案はもちろんのこと、同校の教員を「総入れ替え」するという市長提案は、実態解明につながらない。まじめにやっている教員まで排除し、学校の再生に水を差しかねない案だ。
「廃校もあり得る」という発言も、在校生や保護者に不安を与えた。1月21日、橋下氏が学校で生徒に直接語った場では、生徒から「もっと私たちのことも考えてほしい」という意見が出た。
そもそも橋下氏は体罰容認論者で
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