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強豪校に潜む体罰の体質――強くしたい大人の勝手な欲望の現れではないか

大久保真紀

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

 大阪市立桜宮高校のバスケットボール部で、顧問の教師から体罰を受けた高校2年生の男子生徒が自殺したというニュースを聞いたとき、私はスポーツの強豪校ではありうる話だと感じました。亡くなった男子生徒には本当に気の毒です。ですが、暴力としか呼べないような行為は、桜宮高校に限らず、強豪校と呼ばれるところには、あるいは強豪校になろうとしているところにはまだまだ横行しているのではないかと日頃から思っていました。もちろん、スポーツの強豪校や強いチームの指導者がみな暴力をふるっているとは思いません。ですが、まだまだ日本のスポーツの世界にはこの体質は根深く残っていると思います。

 私は2006年から約2年間、鹿児島総局でデスクをしました。鹿児島県内で起こるすべての出来事に対して、総局の記者たちに取材の指示をし、原稿を見る立場です。

 あえて名前は伏せますが、当時、甲子園で準優勝をしたことがある野球の強豪校で監督が部員への暴力を繰り返しているという情報を得ました。記者が取材を重ね、そのことを報じました。監督は練習試合で、自分の意見と異なる走塁の指示を出した部員に腹を立てて、ベンチの中で「何言ってんだ」などと起こり、部員がいすに倒れ込むほどの力で平手でほおをたたきました。また、別の日には、監督が守備をめぐって暴言を吐いたときに、その顔を見た別の部員に「何だ、その目は」などと言って腹をけったそうです。

 すでに学校側が監督に事情を聞き、監督は事実関係を認めて「気合が入りすぎた」などと釈明したということもわかっていました。また、学校の最高責任者が部員を集めて事情を説明し、再発防止を約束したうえで「高野連に発覚したら出場停止になる。過去のことは水に流してほしい」などと話したこともわかりました。

こういう取材の場合、必ず当事者の言い分を聞きます。当然、監督や学校関係者に私たちは話を聞きに行きましたが、責任者も監督も全面否定しました。

 ですが、私たちは取材には絶対の自信があったので、全面否認のコメントも添えて、この暴力事件について、他紙に先んじて報じました。当然ですが、私たちが新聞で報じた日から公になり、鹿児島県内のテレビ、新聞各社も取材を始めました。

 その日は学校の責任者が会見を開きました。その席で、彼は、報道を受けて監督やコーチ、部員から事情を聞いたところ、監督やコーチが部員に暴力をふるっていたことを確認した、と発表しました。監督を謹慎処分の上、減給、コーチを厳重注意処分にする、とのことでした。しかし、彼自身が部員らに口止めをしたことは否定しました。

 それを受け、私たちは学校責任者が部員らを集めた会議の音声を入手し、彼が「前に行くのか、野球部をここでつぶすのか、君たちに選択をしてほしい」「今後、親に対してあまり細かいことを報告しない。外で騒がれたら大変なことが起こる」などと話していたことをさらに詳しく伝えました。

 結局、この高校は日本高野連から処分を受け、さらに、数日後には学校責任者も「口止め、隠蔽をしたと言われても仕方ない」と認めました。

 その間、試合に負けた日に、この監督が午後6時ごろから部員全員に1周200メートルの校庭を100周走るように命じ、1人の部員が午後8時すぎに蛇行を始めて倒れていたことも、私たちは知りました。暴力事件が明らかになったこのときから3年ほど前に起こったことでした。

 この生徒は救急車で病院に搬送されましたが、熱中症と診断され、約1カ月間意識不明の状態だったそうです。意識を問い戻した後もリハビリを続けましたが、言葉を思うように話せず、まっすぐ歩くこともできなくなるなどの障害が、後遺症として残りました。

 当時部員だった1人は「水を少し飲んだらすぐまた走らされた。学校側から事故の数日後に部員が集められ、『まだ高野連に報告をしていないので、事故のことを言うな』と言われた」と私たちの取材に話してくれました。私たちの取材に監督は「生徒が自主的に走った」、学校責任者は「生徒は体調不良だった。監督は水もきちんと飲ませていた」と答えました。

 この報道の2年後、この元生徒が、学校に対して、重い障害を負ったのは学校側に重大な過失があるとして約1億円の賠償請求訴訟を起こしました。その2年8カ月後、両者は、学校側が元生徒の請求に沿った金額を支払うことで和解をしました。

 子どもが重い障害を負ったにもかかわらず、そのときに賠償請求などの動きを両親はしませんでした。それは、元生徒がまだ高校に通い続けていたということだけでなく、ほかの部員の親から、「事故のことが外に出ると甲子園に行くことができなくなる」というプレッシャーをかけられたそうです。出場停止などになれば、「お宅のせいで甲子園に行けなくなった」というようなことを言われかねない雰囲気を感じたと聞きました。

 その後も私が鹿児島にいる間に、同じ高校のサッカー部での暴力事件も情報が入ってきました。こちらは部長が部員に対して顔を平手打ちにしたり、足を20回以上けるなどの暴力をふるっていました。また、この高校の中等部の野球部でも、深夜部長から頭をたたかれた部員が退学していたことも明らかになりました。

 こうした指導者は結局、退職していきましたが、野球部の監督は、別の県の高校で野球部を率い、最近も甲子園に出場しました。いまこの監督がどのような指導をされているか私にはわかりませんし、過去の過ちをもって、いま現在のことを非難するつもりはありません。ただ、当時、少なくともきちんとした説明も反省の弁もなかったのは事実です。強いチームを育てる手腕は、他校に望まれて迎えられるのだな、と感じました。

 この鹿児島の高校では、その後も、野球部、サッカー部ともに上級生から下級生の暴力があったことが、何度か明るみに出ています。さらに、直近でも、 ・・・ログインして読む
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筆者

大久保真紀

大久保真紀(おおくぼ・まき) 朝日新聞編集委員(社会担当)

1963年生まれ。盛岡、静岡支局、東京本社社会部などを経て現職。著書に『買われる子どもたち』、『こどもの権利を買わないで――プンとミーチャのものがたり』、『明日がある――虐待を受けた子どもたち』、『ああ わが祖国よ――国を訴えた中国残留日本人孤児たち』、『中国残留日本人』など。

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