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[12]全日本選手権リポート(中)

本当のライバル、高橋大輔

青嶋ひろの フリーライター

 高橋大輔と羽生結弦――彼らふたりの関係を思う時、真っ先に思い浮かべるひと幕がある。

 2012年3月の世界選手権、男子シングルフリー後の記者会見にて。ショートプログラムでは7位だったため、羽生は初めての世界選手権記者会見を迎えていた。

 他の選手に少し遅れて会見場に入ったのだが、その時の彼は実に威勢よく、「失礼します!」と日本語で挨拶をしたのだ。少し緊張もしていたのだろう。日本語を解する人ばかりではない、国際試合の会見場での礼儀正しい挨拶は、一瞬にしてその場をニューカマーを迎える雰囲気にしてしまった。この時、高橋大輔が羽生に向けた兄のような微笑みが、なんとも言えず暖かかったことが忘れられない。

拡大2012年12月のGPファイナルで優勝した高橋大輔(右)と2位の羽生結弦

 世界選手権出場7回、26歳のベテランと、今回が初出場の17歳。これだけ年齢の離れたふたりが、この先2年、ソチ五輪まで世界を引っ張っていくスケーターになる。

 そのふたりがともに日本人で、華やかなひな壇の上でいい顔で笑い合っていることに、なんだかとても幸せな気持ちになったのだ。

 それから一年にも満たないうちに、NHK杯ではSPの世界最高得点を更新して、羽生優勝、高橋2位。グランプリファイナルでは今季の男子シーズンベストを塗り替えて、高橋優勝、羽生2位。

 こんなにもレベルの高いところで、ふたりが真っ向からぶつかり合い続ける姿は、思い描くことができなかった。

 少し前までの羽生は、遥か高いところにいる高橋を懸命に追いかける、ほほえましい存在だっただろう。必死で背伸びをして、史上最高レベルのスケーターに追いつこうとする高校生を、誰もが応援したくなったし、彼らの爽やかなライバル関係を歓迎していた。

 しかしチームジャパンの末っ子だったはずの彼は、凄まじいスピードで一番下から駆け上がってきたのだ。若さゆえに追いつくのは難しいと思われた18歳が、誰もが驚く成長力で、高橋大輔の本当のライバルになってしまった。

 もう、ふたりの関係がほほえましいなどとは言っていられない。本人たちも本気、彼らを囲むチームも本気、応援する側も本気。真剣に一対一になったふたりが照準を絞っているのは、間違いなくオリンピックの金メダルだ。  

 今の彼らを見ていると、「負けたくない相手がいる」、この状況がどれだけ人の力を引き伸ばすかがよくわかる。もちろん高橋も羽生も、状況がどうあろうと素晴らしいスケーターだ。しかしお互いに、「大ちゃんがいるから」「ゆづがいるから」、今シーズンここまで躍起になり、それぞれの試合でここまでのパフォーマンスを見せられているのではないか。

 そのことは、全日本選手権でもはっきりと見てとることができた。

 まずは、試合前からショートプログラムにかけて。

 公式練習から周囲を圧倒していたのは、他の誰でもなく羽生結弦だった。軽やかにジャンプを決めつつも、表情は決して緩めず、滑りには18歳とは思えない凄みがある。何年も経験を積み上げ、いくつもの修羅場を越えて、やっと身につけるだろう凄みを、最年少の彼が最も強く放っていたのが不思議だ。

 試合前日の取材に答える様子も、男子上位陣の中でひとりだけ違っていた。ある選手は弱気になり、ある選手は調子の悪さから不機嫌になり、高橋さえも

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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