本当のライバル、高橋大輔
2013年02月01日
2012年3月の世界選手権、男子シングルフリー後の記者会見にて。ショートプログラムでは7位だったため、羽生は初めての世界選手権記者会見を迎えていた。
他の選手に少し遅れて会見場に入ったのだが、その時の彼は実に威勢よく、「失礼します!」と日本語で挨拶をしたのだ。少し緊張もしていたのだろう。日本語を解する人ばかりではない、国際試合の会見場での礼儀正しい挨拶は、一瞬にしてその場をニューカマーを迎える雰囲気にしてしまった。この時、高橋大輔が羽生に向けた兄のような微笑みが、なんとも言えず暖かかったことが忘れられない。
世界選手権出場7回、26歳のベテランと、今回が初出場の17歳。これだけ年齢の離れたふたりが、この先2年、ソチ五輪まで世界を引っ張っていくスケーターになる。
そのふたりがともに日本人で、華やかなひな壇の上でいい顔で笑い合っていることに、なんだかとても幸せな気持ちになったのだ。
それから一年にも満たないうちに、NHK杯ではSPの世界最高得点を更新して、羽生優勝、高橋2位。グランプリファイナルでは今季の男子シーズンベストを塗り替えて、高橋優勝、羽生2位。
こんなにもレベルの高いところで、ふたりが真っ向からぶつかり合い続ける姿は、思い描くことができなかった。
少し前までの羽生は、遥か高いところにいる高橋を懸命に追いかける、ほほえましい存在だっただろう。必死で背伸びをして、史上最高レベルのスケーターに追いつこうとする高校生を、誰もが応援したくなったし、彼らの爽やかなライバル関係を歓迎していた。
しかしチームジャパンの末っ子だったはずの彼は、凄まじいスピードで一番下から駆け上がってきたのだ。若さゆえに追いつくのは難しいと思われた18歳が、誰もが驚く成長力で、高橋大輔の本当のライバルになってしまった。
もう、ふたりの関係がほほえましいなどとは言っていられない。本人たちも本気、彼らを囲むチームも本気、応援する側も本気。真剣に一対一になったふたりが照準を絞っているのは、間違いなくオリンピックの金メダルだ。
今の彼らを見ていると、「負けたくない相手がいる」、この状況がどれだけ人の力を引き伸ばすかがよくわかる。もちろん高橋も羽生も、状況がどうあろうと素晴らしいスケーターだ。しかしお互いに、「大ちゃんがいるから」「ゆづがいるから」、今シーズンここまで躍起になり、それぞれの試合でここまでのパフォーマンスを見せられているのではないか。
そのことは、全日本選手権でもはっきりと見てとることができた。
まずは、試合前からショートプログラムにかけて。
公式練習から周囲を圧倒していたのは、他の誰でもなく羽生結弦だった。軽やかにジャンプを決めつつも、表情は決して緩めず、滑りには18歳とは思えない凄みがある。何年も経験を積み上げ、いくつもの修羅場を越えて、やっと身につけるだろう凄みを、最年少の彼が最も強く放っていたのが不思議だ。
試合前日の取材に答える様子も、男子上位陣の中でひとりだけ違っていた。ある選手は弱気になり、ある選手は調子の悪さから不機嫌になり、高橋さえも
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください